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愛原様のたわごと(11年10月15日)






愛原「野田政権は駄目だ。」

逆沢「・・・は? 何、藪から棒に? 一体、何が言いたい訳?」

鼎「というか今回、見切るのが早すぎる気がしないかなぁ? 安倍政権の時も鳩山政権の時も、そこまで早い時期に見切るような事はしなかったと思うけど・・・。」

逆沢「まぁ、【見切るタイミング】ってのは、見切る人にも、見切られる人にもよりけりだとは思うけどねー。相手によっては、最初の一日目からダメ出ししたくなる時もあるだろうし。」

愛原「内閣支持率を例に取れば、政権発足時点でいきなり不支持を突きつける人は、最初から見切っているというか、はなから信用していないというか、個人的に嫌いでむしろ失敗してくれたらいいのにと思っているか、まぁそんな所だろうな。俺の場合は、そいつが何の仕事もしない内から【コイツは駄目】と決めつけるのは、なるべく慎みたいと思ってるから、いきなりダメ出しはあまりしたくないと思ってはいるのだが・・・。」

逆沢「でも今回は、やたら早すぎじゃない? ていうかこんなに早くダメ出しした事、今まであったっけ?」

愛原「小泉政権以降に限って言えば、多分ないな。福田政権と菅政権に関しては、最後までダメ出ししないままだったし、鳩山政権も普天間問題で大どんでん返しを国民に食らわすその日までは、一応見限る事まではしなかったし。」

逆沢「それが何で、どうして? 野田総理の何が気に入らない? もしかしてブサメンだから?」

愛原「こらっ! なんでブサメンが関係あるねん? というか俺的にはイケメンよりブサメンに活躍してもらった方がニヤニヤできるタイプだから、野田総理がブサメンである事自体は、プラス判定になってもマイナス判定にはならんぞ。」

鼎「野田さんは、今までの民主党政権みたいに嘘ばっかり言わないし、やたら敵を増やすような事も言わないし、しかも玄人好みの手堅い安全運転で、私は嫌いじゃないんだけど・・・。」

愛原「どんなに安全運転でも、目的地に着かなければ意味がないだろう。その点でいえば、野田政権には全く希望がない。自民党政権時代と、どの部分が違うのか、さっぱり分からない。官僚主導に逆戻りして無駄を減らす努力を一切しなくなってるし、外交路線も戻ってるし、財界や利権団体の要求も事実上丸呑み状態だし・・・。まぁ、もう民主党自体、解党した方がいいな。自民党政権時代のような政治を望む人なら、エセ自民路線の民主党に投票しなくても自民党に投票したら済む事だし、脱自民路線を望む人なら自民・民主以外の勢力・個人に投票すればいいからな。」

逆沢「そこまで言うか・・・。ていうか、ものすごいアンチぶりでびっくりしたんだけど・・・。」

愛原「こんなに不愉快になったのは、郵政民営化推進を公約して当選した議員達を率いながら、それと真逆の政策を推進した麻生政権以来だ。公約と真逆の政策を進めたいなら、さっさと解散して民意を問い直せって感じなんだが。」

鼎「でも私達が口先であれやれこれやれと言うのは簡単だけど、それを実務レベルでやる側の人は、すごく大変だと思うよ。小泉政権も5年続いたけど、5年かけて進められた改革自体、そんなに多くはないと思うし。」

愛原「俺も別に多くは望んでいない。だがそれ以前の問題として、野田政権の進めたい事は何なんだ? 増税? 震災復興? 無駄を省かない増税などは官僚のシナリオ通りの国民をバカにしたものでしかないし、復興なら、そんな事は当たり前だ。ていうか復興作業自体、野田政権は利権のネタに変えてしまってる有り様ではないか? 【除染作業は国の責任でやる?】とか、何で? それは東電の責任ではないのか? ていうかお前ら、東電の責任を骨抜きにしようとしてるだろ? かつての住専問題の時と、処理方法が全く同じではないか? こっちが気付いてないとでも思っているのか?」

鼎「確か住専問題の時も公的資金注入がすごく話題になってて、公的資金を入れるなら銀行や農協の職員らはボーナスを返上すべきだとの世論の声も出てたけど、結局、誰も責任を負う事なしに税金だけが注入されたんだよね。」

愛原「15年以上も前の事なのに、お前らよく知ってるな・・・。まぁあの時の政府も、最初の時だけは【選択肢や可能性として(減俸なども)ありえる】という言い方で国民をだまくらかして、とりあえず公的資金注入だけが先に決定されて、その後は責任問題には誰も触れずじまいでフェードアウトって感じだったんだが。」

逆沢「今回の東電の問題も、【今後の可能性としては(給与や年金の削減も)あり得る】という論法で始まって、少し前に公的資金注入だけが先にスタートして、いつの間にかTPPなどの別の議題が中心になって、東電の責任問題については既に過去の話扱いになりそうで怖いわね。」

愛原「あの時と、全く同じパターンというか、テンプレート通りというか、カタにはめられつつあるというか、そんな感じがする。ただ当時と違う点として2点。一つはインターネットが存在する為、世論の抵抗がより長引く可能性がある事。もう一つは自民党が野党の為、東電擁護の政府の姿勢を野党がほとんど追及しないまま、よりひどい茶番であっさりカタにはめられる可能性があるという事だ。」

逆沢「うーん。前者はともかく、後者はすごく困るわ。自民党はもっと東電と政府を激しく攻撃しないとダメなのに、今の野党第一党は、民主党が野党第一党だった時の半分も、野党の本分を果たせてないみたいだし。」

愛原「民主党は、野党の時はまだまともな方だったが、政権を取らせてみるとガッカリという【カレー味のウ○コ】。期待だけはさせてくれたけどって、感じかな? 一方の自民党は与党時代もウンザリだったけど、野党になっても相変わらずで【ウ○コ味のウ○コ】。期待すらさせてくれない。そして鳩山や菅の時は、まだ期待感だけはあったけど、野田政権ではそれもない。カレー味部分も薄れて、すっかり【ウ○コ味のウ○コ】になっちゃったなぁというのが、素直な感想だ。」

鼎「二大政党が両方とも【ウ○コ味のウ○コ】だったら、もう小選挙区制にこだわる理由もないよね。」

逆沢「しかしこのネタの流れは、さすがにキツいわ・・・。自民党支持者だけじゃなくて、民主党支持者まで怒らせて、このコーナーは多分もう四面楚歌状態ね・・・。」


愛原「四面楚歌・・・。有名な四字熟語だな。確か戦えば必ず勝つような万夫不倒の項羽(項籍)軍が、劉邦軍にいつの間にか追い詰められて、万事休すになった時の光景が出典だったか?」

鼎「うん。城の四方を劉邦軍に囲まれた上、項羽さんの地元である楚の国の歌まで響くようになって、それでさすがの項羽さんも【(自分の地元・地盤である)楚の人までが劉邦側についてしまった】と思うようになって、戦意をくじかれた場面の故事だよ。」

逆沢「つまり絶体絶命。アンタがどんなに神経図太くとも、さすがにどうしようもない程に周囲は敵だらけって状況ね。かつての味方も含めて、みーんな敵に回りましたってのが、四面楚歌状態な訳だから。」

愛原「おいおい。この国には自民党支持者と民主党支持者しかいないのか? 勝手に俺を四面楚歌状態に置くなよ。・・・まぁそれは差し置いて、項羽と劉邦がらみのネタは、機会があれば一度やってみたいと思っていたものの一つだ。今回は歴史ネタをサカナにして、ハイレベルな哲学論をぶってやる事にしよう。」

逆沢「こらこら。アンタにハイレベルな哲学なんて語れる訳ないでしょ♪」

鼎「ハイレベルな学問というのは、ほとんどの学生さんにとって睡眠薬の代わりにしかならないものだよ。小難しくて眠たくなるだけの効果しかないから。」

逆沢「低レベルの学問でも、逆の意味で眠たくなりそうな気がするけどね。むしろこっちの方が可能性も高いか。あはは!」

愛原「普通、こういう場面では、【おお、これはすごく楽しみ!】とか言って、場を盛り上げるべきだろう。何で逆に場を盛り下げる?」

逆沢「いやあ、まぁ条件反射って奴で♪ で、今回のテーマは何だ?」

愛原「今回のテーマ名は【利の人、情の人】だ。方向性としては前々回のテーマであった【利権】を、全く別角度から見たような内容になる。」

逆沢「別角度? 何それ? 前々回の利権もそうだったけど、利を追い求める人にポジティブなイメージ自体、あまりないんだけど。」

鼎「逆に情の人というと、何となく温かいというか、人の血が通っているというか、なんとなく良さそうなイメージがあるけどどうかなぁ?」

愛原「俺も基本的にはそんなイメージの持ち主だ。だが今回ばかりは、それをひっくり返したような形で話を進めてみたいと思う。あくまで別角度からみた解釈という事でご了承願いたい訳だが、さて先に出てきた項羽劉邦を、で比喩するなら、どっちがどっちだと思う?」

逆沢「知らん。よその国の歴史にも興味はない。」

愛原「・・・のっけからそんな事を言われると、話が全く進まないのだが。」

鼎「私、大体、分かるよ。項羽さんは情の人。劉邦さんは利の人だよね。」

愛原「ナイスフォローだ。今回のテーマは鼎一人いれば十分そうだな。」

逆沢「ちょっと待て。分かる人だけ分かればいいって、そんな傲慢な態度で話を進めていいと思っているのか? 私にも分かるように話を進めろ!!」

愛原「仕方がないな。では鼎。なんで項羽が情の人で、劉邦が利の人といえるのか、簡単に説明してやれ。」

鼎「うん。まず項羽さんは、三国志でいう所の呂布さんのような圧倒的な武勇の持ち主で、性格も豪放ですごく情に厚い人だったの。大切な身内や仲間が亡くなったと聞けば激しく慟哭し、それらが傷つけられたと思えば激しく怒り狂い、反面、たとえ敵であっても相手が泣きついたらつい許してしまうような、すごく感情の起伏が激しい人だったらしいよ。」

愛原「そして項羽の政治手法も、感情まかせなものだった。かつて圧政を敷いていた秦を倒す過程で、降伏してきた秦の兵20万人を皆殺しにしたり、秦の首都を焼き払ったり。項羽自身には暴君の自覚はなく、あくまで正義の味方が、悪を成敗したくらいの認識しかなかったみたいだが。」

鼎「でも単なる暴君タイプじゃなくて、相手が泣きついてきたら、つい情にほだされて寛大に許してしまったり、相手が利発な子供だったり、相手が礼儀正しい識者であれば、それらにもつい紳士的に対応してしまうような所もかなりあったらしいよ。」

逆沢「つまりおだてられたらすぐ木に登ってしまうような、頭の悪い体育会系キャラって事ね。項羽って人は。」

鼎「逆に劉邦って人は、利を基準に行動した人だよ。利で釣って楚の武将を寝返らせたり、恩賞を大盤振る舞いする事でたくさんの有能な人材が劉邦さんの元に集まってきたりして。利になると思ったら、プライドも捨ててさっさと人に頭を下げたり、逆に同盟を結んだ直後に同盟を一方的に破って攻め込んだり、なんというかすごくフットワークが軽い人って感じかなぁ?」

逆沢「今風の言い方をすれば、要領がいい人って感じね。けどその劉邦って人には、人並みのプライドとか誇りというのはなかったの? コイツに頭を下げるくらいなら死んだ方がマシだとか、そういう感じの。約束を平気で破るような性格も最低って感じなんだけど。」

愛原「けど最終的に天下を取ったのは劉邦の方だけどな。戦争では項羽の方が一方的に強かったが・・・。劉邦軍56万が項羽軍3万に完敗した事もあるくらいに。」

逆沢「項羽軍って本当に強かったのねー。しかも劉邦って奴は、相当ずるくて人望もなさそうなのに・・・。劉邦側が最終的に勝ったと言われても、いまいちピンと来ないんだけど。それとも劉邦って、実はすごく情にもろくて優しい人だったとか、なんかいい所でもあったの?」

愛原「むしろ非情の人だったようだな。但し、項羽とは逆の意味で非情なタイプだ。項羽の場合は、身内や自分が心を通い合わせた人間にはすごく優しく礼儀正しくもある反面、モブとか敵にはとことん残虐な性格だった。一方、劉邦は身内に非情なタイプ。自分が逃げるのに必死な局面になった時には、逃げるのに足手まといになるという理由で息子を何度も馬車から投げ捨てているし(その度に家臣が子供を拾ったが)、自分の父親が項羽に捕まって人質にとられた時にも、【もしも親父を煮殺すというなら、自分にもスープを分けてくれ】とか返答して、項羽をあぜんとさせている。」

逆沢「何、その人でなし・・・。今の日本でも、自分の子供を平気で餓死させたり、親殺しをやる奴もいるけど、劉邦って奴は、もしかしてとんでもない人格破綻者? 親を殺されそうになっても平気。子供を捨てるのも平気って、正気な人間の発想とは思えないんだけど。」

愛原「ちなみに劉邦が建国した漢の皇帝の末裔を自称する劉備も、長坂坡の戦いの時に息子(後の蜀漢2代皇帝劉禅)を投げ捨てているけどな。」

逆沢「劉邦にしろ劉備にしろ、何でこんな人でなしが人気者なのか、私の感性では理解不能だわ。」

鼎「でも私には、ちょっと理解できる所もあるかも・・・。たとえば政治家が自分の身内ばかりひいきして、世襲したりすると、庶民としてはなんか面白くないと思うところがあるよね?」

逆沢「ああ、なるほど。つまり劉邦とか劉備といわれる人は、身内だからといって、一切ひいきはしない。どこまでも冷徹で公平な人だったとも解釈できる訳ね。」

愛原「もしも劉邦が身内に甘いようなただの凡人なら、父親を人質に取られた時点で天下取りはもう終わりだし、それ以前のどこかで、判断を誤ってやられてた可能性もありそうだからな。」

逆沢「うーん。でも自分の身内に甘くなるのは、ある意味、遺伝子レベルで刻み込まれた感情だからねー。災害が起きた時なんかでも、親が体を張ってまで自分の子供を守るような光景もあるし。自分の身やもっと大きな何かを捨てても、身内を守りたくなるような凡人と比べると、やっぱ劉邦や劉備というのは、すごく変わり者だと思うわ。」

鼎「でも日本でも、徳川家康さんとかは、信長さんににらまれないように長男の信康さんを殺しているし、英雄といわれる人には、元々そういう冷酷非情な一面もあるのかも知れないけど・・・。」

愛原「項羽はそう言う意味でも、劉邦とは真逆の性格だった。身内をとことん愛し、身内を守るためならモブを皆殺しにしても当然と考えるような性格。目的のためなら身内すら平然と切り捨てる劉邦とは、間違いなく正反対というか。」

逆沢「利のためなら身内すら平然と切り捨てるなんてのは、私からすると典型的な冷酷型の悪役タイプにしか感じないのだけど・・・。その劉邦って人。それじゃあ、身内よりも友情とかを大切にするタイプだったって事?」

愛原「うーん。それは何とも微妙な質問だな・・・。ていうか劉邦という人の判断基準は、とことん情ではなく利みたいだったんだ。たとえばさっき、劉邦は恩賞などを大盤振る舞いするタイプと鼎が言ってたが、これは実は未来永劫という訳ではない。むしろ劉邦は、世界レベルでも屈指の大功臣粛正をやってるくらいだからな。」

逆沢「功臣粛正というのは、確かかつて自分のために働いて功のある臣下を粛正することだったわね。つうか、功臣を粛正するなんてのも、私から見たら立派な外道行為なんだけど。」

鼎「利や大義名分に釣られてせっかく味方になったのに、後で用済みになった途端にばっさり捨てられるとしたら、すごく悲しいものがあるよね。」

逆沢「どうせ用済みになったら切り捨てるという発想があったから、大盤振る舞いもできたという事か?」

愛原「逆パターンもあるぞ。たとえば劉邦というのは元々、大の儒教嫌いだったそうで、儒者と会うたびに冠を取らせては、平気でその冠に小便を引っかけるような事をやっていたそうだが。」

逆沢「何、それ? 話を聞けば聞くほど、劉邦って、人間のクズにしか思えないんだけど?」

鼎「儒者相手に限らず、劉邦さんは元々、家臣から注意されるほど無礼な性格だったらしいよ。高貴な人には礼儀正しかった項羽さんとはその点でも真逆で、高貴な人を見るたびに【何インテリぶってんだ、この野郎】と思うような人だったみたいだよ。」

愛原「だが劉邦は、天下を取った後、自分が最も嫌っていた儒教を積極的に取り入れている。支配階級にとって便利な思想という事で、自分にとって役に立つ思想と思えるように変わったようだ。」

逆沢「うへぇー。劉邦って人は、とことん損得勘定で物事を考えるような人だったのねー。」

愛原「だから劉邦は利の人。項羽は情の人だといえる。情の人である項羽は、礼儀正しい人には礼儀正しく接し、頭を下げてくる人には機嫌を良くして寛大に接し、反面、敵認定した相手は容赦なく叩き殺す。一方、劉邦は、損得勘定で物事を最終判断する。気に入らない相手に平気で小便をかけまわるような御仁だから、根は結構分かり易い人なのかも知れないが、それも相手次第なんだろう。相手が強いとみればどこまでも平身低頭できるし、相手が弱くなったとみれば約束破りも粛正も小便かけも平気でやる。」

逆沢「すごいクソっぷりねー。なんか怖い先生の前ではとことん優等生を演じて、その裏でイジメとかも喜喜としてやってそうなタイプというか。」

鼎「でもここでポイントなのは、劉邦という人は、トータルでは決して嫌われ者ではなくて、むしろ天下取りに成功したカリスマだったという事だと思うよ。」

逆沢「そこが一番よく分からんわ。話を聞いている限り、ずる賢くはありそうだけど知将って程でもなさそうだし、戦争にもむっちゃ弱そうだし、しかも礼儀もなってないし、この人のどこがいいの?って感じなんだけど・・・。」

愛原「うん。ちなみに漢建国の功臣の一人である韓信が、劉邦のことを称して【将の将】と言っている。また項羽の事を【匹夫の勇、婦人の仁】とこきおろしているぞ。」

鼎「韓信さんはかつて項羽に仕えていたんだけど、項羽さんの事を【気前が良いようにみえて、実はケチな性格】だと、思ってたそうだよ。一見、寛大そう・気前良さそう・優しそう・頼りがいありそうに見えるけど、いざ報酬を与える段階になると出し惜しみをする事から、【婦人の仁】と言ったんだって。」

逆沢「あー、現実世界にもいるわ。そういう人。口先では他人のことをあれこれ心配しているようだけど、実は他人の為に何もしない人。被災者を見て可哀想〜とかは平気で言うけど、募金もボランティアも政治的な活動も一切しない人。項羽さんも、案外そんな所があったって事ね。」

愛原「項羽は礼儀正しく剛気で寛大そうだから、始めの内は次々人材も集まっていく。だが実際には、それらの助言をうんうんと聞くだけで、真面目に実行もしない。褒賞も与えない。また人を見た目や噂で判断する。だから韓信の事も【人の股をくぐった情けない奴】と過小評価し、全く重用しなかった。」

逆沢「今風の言い方で言えば、学歴や容姿や名声だけで人材を判断するようなタイプだったって事ね。見た目、礼儀正しく清潔感があって、自分に従順で、履歴書を見てもなかなか良さげであれば、それでOK的な。」

鼎「項羽さんは、自分の言うことを素直に聞く部下を好んでいたみたいで、逆に不愉快な事を言う部下をすぐに煮殺して処刑したりもしてたから、いかにもイエスマンタイプの部下を好むワンマンタイプだよね。」

愛原「逆に劉邦の部下には、無礼な主君に負けないくらい気の強いタイプも多く、色んな家臣が劉邦に苦言を呈し、劉邦もそういう部下をなんだかんだ言っても頼りにしていたようだ。あとちなみに上記の韓信も、劉邦同様、実利主義者だったらしく、それで変なプライドに凝り固まるような事もなく、股をくぐればトラブルを避けられるというなら、さっさと股をくぐるような発想をしたのだろう。他人からカッコ悪いと思われようが、そんな事は気にせず、実利を優先するという意味では、劉邦とウマが合ってもまぁ納得かも知れない。」

鼎「逆に【匹夫の勇】と評された項羽さんだったら、相手がどんな強敵であろうと、絶対に他人の股をくぐるような選択はしない気がするよね。」

逆沢「進む勇気は人一倍持ってそうだけど、退く勇気は全然無さそうなタイプね。憎い人に頭を下げたり、恥をかくのには堪えられないとか、そんな風に考えそうな気がするわ。」

愛原「一方、劉邦には【将の将】と評される長所があった。さっきも言ったが、部下に対してとことん褒賞を惜しまない。功臣粛正にも躊躇しない冷酷さはあるが、有能な部下をとことん重用するタイプなので、【自分は有能だ】と考える部下にしてみたら、仕え甲斐のある上司だったのかも知れん。」

鼎「劉邦さんは、褒賞の大きさもあるけど、部下に大きな仕事を任せられる人でもあったみたいだから、大きな仕事をしたいと思う部下にしてみたら、すごくやりがいのある職場環境だったと思うよ。」

逆沢「自分が無能な分、部下任せにするしかなかったともいえそうだけどね。」

愛原「ちなみに劉備も、諸葛亮などの有能な人材に広い権限を与えられる人物だったが、有能な部下に大きな仕事を任せられるというのも、英雄の一つの条件なのかも知れんな。」

鼎「逆に諸葛亮さんは、何でも自分でやらなくては気が済まない性格だったみたいだから、最後は過労死みたいな状態になってた感じもするよね。項羽さんも万夫不倒の勇の持ち主で独裁的にやってたタイプだったけど、一人で何でもやらなくては気が済まないタイプには、限界があるのかも知れないよね。」

逆沢「どんな人間でも、一日は24時間しかないからねー。他人に仕事をたくさん任せられる人ほど、最終的に大きな業績を残せるというのは、すごく分かる気がするわ。」

愛原「項羽は、婦人の仁と評されただけあって、人並みの猜疑心も持っていた。だから部下を信用しきれない。そしてその部分を劉邦陣営に突かれて、流言を信じて賢臣や忠臣を遠ざけるような失策も犯している。」

逆沢「まぁ豊臣秀吉のような英雄ですら猜疑心とは無縁でいられなかったし、部下をつい疑ってしまうというのは、独裁者に付き物の悩みのような気もするけどね。」

愛原「劉邦が色んな意味で別格なのは、ズバリその点だ。一度疑い始めたら、すぱっと相手を切れる一方、今はコイツに頼るしかないと思ったら、中途半端な事をせず、とことんそいつを信じ託す事ができる。(但し晩年の劉邦は、猜疑心も強くなったのか、功臣粛正を派手にやっているが)」

逆沢「ふんふん。つまり今風の言い方をすれば、単に給料がいいだけじゃなく、働きがいのある職場環境が劉邦陣営という職場にはあったって事ね。」

愛原「あと何よりも重要な点として、劉邦は常に多数派を味方につけていた事があげられる。要するに民衆を敵に回さない。家臣団の多数派を敵に回さない。利で釣るというと卑劣なイメージがあるが、劉邦の場合はそれがになっていたともいえる。」

逆沢「はっ? 徳? なんだそれ?」

愛原「辞書や哲学書・宗教書などにより解釈に大きく差がある為、俺的な解釈になるが、要するに【他者を得させる(恩恵や幸福を与える)行為】だと、ここでは解釈して欲しい。」

鼎「徳の元ネタが得という解釈を採用した感じだよね。」

愛原「世の中には、社会全体の利益という考え方がある。たとえば【地球環境を守る】という考えがあるが、これは厳密には何も地球の為ではない。人間サマが今後も地球で繁栄する為の一種のエゴ(利)だ。エゴというと何やら汚らしいイメージがあるが、そのエゴを貫く事で基本的にはみんなが得する。自分一人だけが得するのではなく、人類の大多数が得する。こういう行為を指して、俺は【徳】と解釈している。」

逆沢「なんか独特ねー。私は単純に【良いことをする人=徳のある人】と解釈してたんだけど。善人と一緒かもしれないけど。」

愛原「良いことって、そもそも何だ? 正義の基準なんて人様々なんだが・・・。そもそも俺はそういうのが嫌だから、徳と善は分けて考えるようにしているのだが・・・。」

鼎「つまり今、使っている解釈だと、【一人でも多くの人が得したり満足したり幸福を感じるような行いを推進できる人】ほど徳があるという解釈になるって事かなぁ?」

愛原「そんな感じ。たとえば【公務員宿舎を廃止する】というのは、徳のある行為という感じになる。実際に公務員宿舎を廃止した場合、そこに住んでいた公務員にとってみれば得どころか大損なんだが、社会全体からみれば税金の支出を抑えられ、民間のマンションなどの需要規模も増し景気対策にもなるなど(そもそもリーマンショック以降、マンションの需要は伸び悩んでいるくらいなので、公務員が公務員宿舎から民間住宅に移る事は、首都圏の景気浮揚にも直結する)、社会全体トータルとして得をする行為だからだ。たくさんの人が喜ぶ。得をする。【公務員宿舎の廃止】という蛮行は、公務員の人から見れば、民間人の嫉妬やエゴでしかないと映る訳だが、エゴであろうがなかろうが、社会全体としてみれば結果としてたくさんの人が得になるから、それは徳のある行為になるといえる。」

逆沢「話を戻すと、劉邦という人は、利で人を釣る名人であったけど、結果としてそれでたくさんの人が得をしていたって事ね。」

愛原「そう。引き抜かれた項羽陣営とか、一部の人にとっては大損だが、引き抜いた側はより陣容が強化されて得になってる訳だから、反対する必要もない。当時、項羽にモブ扱いされた民衆達にしても、モブ相手に冷酷非情な項羽よりも、そうでない劉邦の方をより支持していたし、その劉邦が強くなる事自体は、相対的に大賛成だった訳だし。」

逆沢「つまり劉邦は利で人を釣ったり、エリートに小便をひっかけたがるような倫理的な大問題児だったかも知れないけど、それでも結果として民衆が望むような世の中に近付けているから、それはそれで構わなかったって事ね。」

鼎「そういえば劉邦さんの場合は、功臣はたくさん粛正したけど、項羽さんがしたような派手な虐殺や放火などはやってなかったと思うし、秦王朝時代のような圧政をしたイメージもないし、民政的には割と安定していたイメージがあるよね。」

逆沢「エリートに小便かけたがるような劉邦は、公務員叩きをしてうっぷんを晴らしたいような民衆からしたら、もしかしたらそれだけで気持ちいい存在だったのかもと、今更ながらに思えてきたわ。利権に執着するようなエリートをギャフンといわせたいという庶民感覚は、私も分からなくはないから。」

愛原「逆に項羽は、情の人であり熱血漢であり正義漢でもあったが、徳のある君主とはいえなかった。項羽が天下を支配する事で、得をする人はほとんどいない。あるいはそう思われていたから。」

逆沢「つまり利益誘導政治自体が悪い訳じゃなくて、そういう政治が行なわれた結果、どれだけの徳を社会に与えるかこそが重要って事かな?」

愛原「そういう事。我々凡人は、シャカやキリストにはなれないので、エゴ抜きの善行を積み重ねる事自体、そもそも不可能だ。しかし自分がエゴを追及した結果、どれだけの他人も得をするか? こういう発想は大事だと思う。地球環境を守る為にリサイクルに協力するというのが、(確かにその人のエゴもあるかもしれんが)自分以外の多くの人も幸福にするようなものだな。利を追及する事自体は悪ではない。理容師が髪を切ってお金を得ても、それで満足する人はいても、不幸になる人はいないようなものだ。」

鼎「じゃあ逆に、自分が得をする代わりに、たくさんの他人が損するようなら、それは悪徳という事になるのかなぁ?」

逆沢「それだったら公務員が公務員宿舎を作りたがるというのは、当事者が得をするだけで、大多数の国民を大損にし続けるから、悪徳という事になりそうね。」

鼎「でもこうしてみると、善悪と徳の有る無しは、かなり別次元な気もするよね。劉邦さんが民衆の模範となるような善人であるようにはとても思えないし、項羽さんも悪意を持って虐殺とかを繰り返してたようにも思えないし。公務員の人ももしかしたら、家族の幸せを優先したら、結果的に公務員宿舎や共済年金を始めとした公務員利権を推進する形になっただけで、根から邪悪な公務員ばかりじゃない気もしてきたかも。」

逆沢「確かにそうかもね。でもこうしてみると、今の日本の公務員は、項羽タイプの人がかなり多そうな気もしてきたわ。家族や職場仲間といった身内にはすごく優しくて頼もしくもあるけど、モブの他人がどれだけ理不尽な思いをしているかに全然気付かない。モブの庶民がどれだけ自分達に強い不満を持っているかにも気付かない。あるいは気付いていたとしても、根がケチだから、自分の特権的な立場はこれからも維持したいし、まして他人の生活を豊かにしたいとも思わない。彼らは利権に執着しているから、一見すると利の人でもありそうだけど、究極的なまでに利の人であった劉邦よりは、情に流されるだけで他人に徳を与えたがらなかったケチの項羽の方が、むしろ近いのかも知れないわね。」

愛原「世の中には、自分も他人も得をする世の中ではなく、自分達だけが得をする事で貴族気分を味わえる世の中を望む人もいるからな。」

逆沢「ああ、いるいる。そういう人は、ある意味、究極の悪徳の持ち主ともいえそうだけどね。」

愛原「最後にちょっとしたお題だ。【野田総理は、(一度は事業仕分けで否定された)朝霞の公務員宿舎建設(と、それに伴う複数の老朽化した公務員宿舎の解体・売却)の5年間凍結を発表したが、これは徳のある行いといえるでしょうか?】。お前らはどう思う?」

鼎「うーん。そのまま作り続けて完成させちゃうよりは、考え直す機会が与えられた分だけはマシかもと思うけどどうかなぁー?」

逆沢「でも既に建設工事も始まっちゃってたし、キャンセル料もかかるんじゃない? しかも5年間凍結するだけで、5年後に再び着工する可能性も高そうだし。っていうか再着工する気がないなら、【凍結】ではなく【中止】でいい訳だから。」

鼎「あ、そっか。キャンセル料の事を考えると、たとえ老朽化した分の売却費用益を考えても、赤字になる可能性が高そうだよね。」

逆沢「つまり凍結したせいで、キャンセル料分だけ、余分に税金がかかる結果になってしまった。その分だけ余分に国民に大損させた訳だから、これは悪徳行為以外の何者でもなさそうね。」

鼎「とりあえず老朽化した分の売却だけでも先行して行なえば、その分だけでも復興財源が早期に確保できるから、まだマシな気もするけど・・・。」

愛原「公務員宿舎の家賃は、同じ条件の民間のマンションの家賃と比べても年150万円分ほど安いらしい(管理費や駐車代も含むとさらに・・・)。つまりもしも老朽化した公務員宿舎を即時に廃止したならば、それだけでも公務員宿舎の維持管理費が浮き、かつ民間経済が潤う可能性があるのだがな・・・。」

逆沢「もしかしたら野田は、とんでもない判断ミスをやったって事?」

鼎「野田さんは、公務員の皆さんの生活環境を思いやって、なおかつ国民の批判感情もかわそうと配慮して、中止でも建設続行でもない凍結という形で間を取っただけの気がするけど・・・。」

愛原「野田も所詮は【婦人の仁】の持ち主だったという事だ。財務大臣時代に官僚達におだてられたり交流を深めあった結果、情が移って、それで事業仕分けの結果をひっくり返したんだろうけどな。野田の第一の失敗は、せっかく事業仕分けで一度は否定された公務員宿舎の再建設を認めてしまった事。第二の失敗は、批判を受けた途端にまたそれをひっくり返した事。第三の失敗は、中止ではなく凍結という最もコスト的に割高な選択肢を選んだ事。第四の失敗は、(こちらは世論も別に頼んでいないのに)老朽化した公務員宿舎の廃止までセットで据え置きにしてしまった事。失敗も挽回できればまだ救われるが、ここまで失策に失策に失策に失策を何重にも一気に積み重ねる総理なんて、さすがに滅多にいないと思う。しかも野田自身に悪意を感じないのが、なお厄介だ。」

鼎「項羽さんも情深かっただけで悪意の人じゃなかったと思うけど、野田さんも情深く悪気もないが故に、悪徳をより積み重ねてしまったという事なのかなぁ?」

逆沢「逆に劉邦さんが今の日本の総理だったら、エリート官僚らに平気で小便をひっかけたり問題行為は起こしまくるかも知れないけど、身内のかばい合いもせず、優秀な人材をどんどんヘッドハンティングして、野蛮な割に国民から絶大な支持を得る可能性もあるわね。私、はじめはすごく劉邦って人が嫌いだったけど、今は逆に公務員宿舎みたいなものをさっさと廃止して、エリートづらした奴をキャインといわせたい側になって来たわ。」

鼎「でも劉邦さんの場合は、平気で約束を破ったり、そのくせずる賢くて要領だけはよさそうな性格だから、できれば直接関わり合いにはなりたくない気はするけど・・・。」

愛原「その点は極めて同感。俺も非情の人よりは、情に厚い人の方が個人的には好きだ。だが自分と親しい一部の人を思いやった結果、大多数のモブを容赦なく蹂躙するようでは、とても徳のある人とはいえない。【有徳の持ち主こそ人の上に立つべきだ】という論調は古代より世界中で無数にあるが、そういう意味では、項羽や野田はやはり具合が悪いと思う。徳無き情の人は、利権団体に平身低頭でお願いされたら、簡単にコロッといってしまいそうだし。」

鼎「情の人だからこそ、ついひいきをしてしまうとしたら、それはやはり問題だよね。」

逆沢「一部の人がひいきされる事で、それ以外の大多数の人が不満を持つ事は当然あるだろうしね。」

愛原「思いやりの心は大切だ。だが誰かをひいきした結果、大多数の人を怒らせたら、それはむしろ悪徳だ。たとえ醜いエゴが根底にあっても、それで他の多くの人も幸福になるなら、それは徳のある立派な行い。逆に純粋な愛情から来る献身的な行為であっても、それで多くの人が損をしたり不満を抱くなら悪徳。財政だの福祉だのといった公共的な分野に関しては、善悪感や情愛(やさしさ)よりも徳の有無で判断するというのもアリだと思う。」







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