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愛原様のたわごと(13年4月21日)





愛原「今回のテーマは【悪の連帯責任】な。」

逆沢「なんだ、その小難しそうなテーマは? つーか今回は前フリはないのか?」

愛原「今回はちょっと真面目なテーマだから、単刀直入に行く。」

逆沢「いつもは結構ウザく感じる時もある前振りだけど、前振りも何もなく、いきなり連帯責任とか小難しそうなキーワードを並べられても、正直【なんのこっちゃっ?】て感じなんだけど。」

鼎「連帯責任というと、なんか法律関係をイメージしちゃうよね。」

愛原「少しだけ分かりやすく言うと、【裁かれるべき悪の範囲】について色々考察してみようという事だ。ゲーム的なシーンで置き換えれば、【悪のラスボスを倒して、めでたくハッピーエンド】となるシナリオは多いが、本当に悪い奴は【結局、そのラスボス一人だけだったのか?】という疑問だな。」

逆沢「あー、なるほど。ゲーム上のご都合設定に一石を投じたいわけね。」

鼎「でも私は、ゲーム上のご都合設定が悪いとは思わないよ。そんな部分でリアリティーを追及しても、シナリオが無意味にややこしくなっちゃうだけだし。」

逆沢「いやいや。私はリアリティーでもアリだと思うけど♪ どんな悪の組織でも、トップを潰すことであっさり瓦解しちゃう事は珍しくないと思うし。」

愛原「うむ。ま、【悪の組織を潰す】事を目的として考えれば、お前らの主張はリアリティーの面から見ても間違いとは言い切れない。悪の組織というのは概して秘密組織であり、上層部だけしか組織の全容を把握してない事も多く、その上層部を破壊すれば、組織としてはほぼ機能しなくなりがちだからだ。」

逆沢「そうそう。組織犯罪グループとしては振り込め詐欺グループなんかが有名だけど、カネの流れとか、構成員の役割とか、全体像を正しく把握できてるのは主犯格一人だけという事すら珍しくないからねー。」

愛原「振り込め詐欺組織の末端に至っては、自分が犯罪行為に手を貸している事に気付いてない者すらいるらしいからなぁ。たとえば現金の受け取り役とか。」

逆沢「あるいは犯罪に使われている可能性があると自覚していても、ただそれだけの人とかね。通帳や携帯電話の名義だけを貸す人とか。」

愛原「だから組織の末端を逮捕した所で、彼らは犯行グループの内情について何も知らないケースがほとんどという事もあって、事件そのものが解決される事はほとんどない。反面、上層部の一握りしか全容を知らない為、その上層部を一網打尽にしてしまえば、意外な程、簡単にその犯罪組織を潰す事もできる。オウム真理教なども、上層部が一網打尽にされた事で犯罪組織としてはほぼ無力化できたケースといえる。」

逆沢「上層部というか、指導者層というのは、誰にでも務まる役割ではないからねー。たとえば麻原彰晃のトップとしてのカリスマ性や指導力や組織運営力を誰でも真似できるかというと、そんな人はまず100人に一人もいないと思うし。」

愛原「そう。仮に悪の組織の残党の一人が後を嗣いで組織を建て直したいと思っても、誰でも代わりが務まるはずがない。独自のノウハウや才覚やカリスマがあるからこそ指導者たりえるのであり、その指導者としての資格は選ばれた人にしか備わってないからだ。」

逆沢「ま、私が大がかりな振り込め詐欺グループを組織しようとしても、まず成功する見込みがないようなものね。」

愛原「だから【悪のラスボスを潰すだけでハッピーエンド】というのは、誇張はあれど、非難に値する程、荒唐無稽とまでは言い切れない。」

鼎「ただ問題なのは、その悪のラスボスを潰すのが難しい事の方だと思うけど。たとえば麻薬とか覚醒剤の密輸とか、いつまで経っても主犯格が逮捕されないし、全容も解明されないままのような気もするし。」

愛原「悪の組織としての規模が段違いなんだろうなぁ。中世ファンタジーで置き換えれば、オウムや振り込み詐欺グループは山賊レベル。麻薬や拳銃の国際密売組織は悪の帝国レベルという事かも知れない。」

逆沢「ま、広域暴力団一つ、なかなか潰せない現実からしても、ラスボスとしての格が全然違うのかも知れないわね。」

鼎「とするとRPGでたとえたら、とても大魔王とガチでバトルできる段階には届かず、せいぜい大魔王の手下のモンスターをしらみつぶしに潰している段階という事かなぁ?」

愛原「ま、そうなのかも知れない。ただ世論の流れとしては、悪のラスボスを倒すという難易度の高い目標を忘れて、より難易度の低い別の存在に悪の責任転嫁をしているような気もする。」

逆沢「より叩きやすい存在がアンリ・マユとして選ばれている傾向はあるかもね。たとえば福岡県で暴力団が危険な抗争をしているらしいけど、暴力団は許せないという論調ではなく、福岡県がヤバいという論調の方が盛り上がってるような感じで。」

愛原「犯罪を犯す人が悪いのではなく、とび職などの末端建設作業員(特定職業従事者)が悪いとか、どこどこに住む住民の質に問題があるとか、特定民族が劣等だからだとか、団塊世代やゆとり世代といった特定年齢層がもたらす考え方や文化自体に原因があるとか、××のようなうさんくさい趣味をにハマっている連中をまず規制すべきとか、あいつは血液型が×型だから身勝手なのは仕方ないとか、コミュニティーそのものに連帯責任を負わせたがる人が増えているのは本当に残念だ。」

逆沢「ファンタジーの世界だと元凶となるラスボスを倒してハッピーエンドなんだけど、現実世界だとラスボスがあまりに強すぎ(かつ怖すぎ)て、そいつを面と向かって非難しにくい。もしくは小悪党を倒しても倒しても、いつまで経っても世の中が良くなる気配がない。だからとりあえず叩きやすい誰かに悪の責任を押し付けてるって事なんじゃないの? あとファンタジー的な【特定のあいつが悪い】だと、そいつが死ぬか権力を失うか逮捕されるなどしたら終わりで、そいつが無力化したにも関わらず世の中が良くならなかったらシナリオに矛盾が生じるけど、【特定のコミュニティーが悪い】なら、このコミュニティーに所属する人間が根絶やしにされるまでは永久にそのコミュニティーの責任に押し付けられるし。」

鼎「昔は悪いことが起こると、神の怒りのせいという事になったり、御政道の乱れのせいになったりしがちだったらしいけど、それが特定の誰かのせいに変わったという事かなぁ。」

逆沢「昔なら天災扱いだったものまで、今では人災扱いになっている気もするわ。天災なら世の理不尽を怨むか、自分の不徳がもたらした神の試練って事で自責の念にかられるしかないけど、人災ならそいつに全責任を負わせて憎しみを叩きつける事で自分自身や天(神)を憎まずに済むから、心理的にはそっちの方が楽なのかな?」

愛原「人間が正しい判断をすれば、どんな大災害が起きても最小限の被害で留められるはずだし、大事故も起こるはずがないという、ある種の人類万能論が幅を効かせすぎているのも一因かも知れん。【人間は必ずミスをする生き物】という大前提と【自然に敬意を払え】という一種の精霊信仰を支持する俺としては、何でもかんでも誰かのせいにする人類万能(人災起因)説はあまりお好みではないのだが。」

逆沢「ただ人災って事にすれば、被害者にしてみれば責任や賠償を求めやすいって事もあるんじゃないの? 天や自然に損害賠償を求めることはできないけど、人に対しては賠償も謝罪も要求する事ができるから。」

鼎「私が問題にするのは、本当に悪い人だけを処罰すれば済む事なのに、それを拡大解釈して【その悪い人】が所属したコミュニティー自体を悪とする風潮なんだけど・・・。」

愛原「ファンタジーの世界だと【特定の大悪人だけを処罰したら一件落着!】なんだが、現実世界ではそうはならず、悪人をどれだけ処罰しても、事件や不祥事が次から次と起こる。しかし天災のせいにはしたくないし、性悪説に因れば自分自身も悪人の素質を持った一人に含まれてしまうし、社会全体に不信感や絶望感を感じてしまう自体も避けたい。じゃあどうすればいいか? 自分が含まれないコミュニティーのせいにすればいい。【特定の悪のグループだけを滅ぼしたら一件落着!】という事にすれば、【特定の悪のグループを滅ぼす】という勝利条件を達する事で【より素晴らしい未来を実現できる】という希望を社会に望むことができる。また【特定の悪のグループ】を攻撃する事で、自分は悪の撲滅(社会全体の幸福)のために貢献しているという使命感と満足感も感じる事ができる。だから叩きやすい程度には弱い別の誰かを悪玉に設定したがる心理が働くのかもしれん。」

逆沢「なるほど、天には勝てないし、性悪説を信じた場合は人が人である限り永久に素晴らしい世の中は来ない現実を受け入れざるを得ないけど、【別の誰かをやっつける】事で悪を成敗できる設定にすれば、未来に希望を持てるようになるって事か? で、自分が社会に有用な正義の味方である為には、悪玉は自分より弱い奴の方が都合がいいと。」

愛原「理想を言えばイケニエとなる悪役は少なければ少ない程いいのだが、【特定の大悪人】という名のイケニエを何人血祭りに上げても、実際には社会は一向に良くならないから、そのイケニエの数を増やしてみたという感じだな。だから【特定の大悪人】から【特定の悪のグループ】に悪の枠が拡大したと。」

鼎「でもグループ全体に連帯責任を負わせるというのは、さすがに酷だと思うんだけど・・・。グループの中にたまたま良くない人が含まれていたからといって、そのグループ全体が連帯責任を負わないとならないというのは、さすがにおかしいというか。」

逆沢「同感。嫌いなグループの中によろしくない人がいるとなったら、喜喜としてそのグループ全体を攻撃する格好の材料に利用する人すらいるからねー。たとえばオタク嫌いの人からすると、世間を騒がせた人間がたまたまオタクだったりすると、それだけでオタク層全体を攻撃する大義名分になったりするわけでしょ?」

愛原「そういう人間は、ほぼ例外なくダブルスタンダードだけどな。たとえば黄砂被害を中国人のせいにして激しく攻撃する人は多いが、スギ花粉被害を日本人のせいにして激しく攻撃する日本人はまずいない。自分が叩く対象となるコミュニティーに含まれるかどうかが重要であり、自分がてんかん症状でなければてんかん症状者による運転を容赦なく一律規制できるし、自分がタバコを吸わなければ愛煙者をいくらでも追い詰められるし、自分がパチンコやアーケードゲームや性風俗に興味がなければパチンコやゲームセンターや性風俗産業が反社会的だとしていくらでも規制できるし、自分が在日でなければ在日を叩けるし、自分が富裕層や成功者なら遠慮無く貧乏人や生活保護受給者やルサンチマンを非難できるし、自分達がゆとり世代や団塊世代でなければゆとり世代や団塊世代を軽蔑できるしみたいな感じで。」

逆沢「だから人によって、生活保護受給者叩きは許せないけど、在日外国人叩きには意義があるみたいなダブルスタンダードの人も出たりするわけね。自分が他人を悪呼ばわりしてガス抜きするのはOKだけど、他人が自分を悪呼ばわりしてガス抜きするのは許せないと。」

鼎「確かにコミュニティー全体を悪認定する事による分かりやすさはあるかも知れないけど、分かりやすさを優先して、理不尽がまかり通る世の中は怖すぎると思うんだけど・・・。」

逆沢「今の世の中は複雑化していく一方だから、その分、より単純化した価値観が尊ばれているのかも知れないけどねー。」

愛原「ただ、世の中が分かりやすさを求める傾向は、昔からの事だからなぁ。たとえば法律分野でも、理不尽を承知で分かりやすさを優先したものは多数ある。手形法なんかその最たる例だし、共同不法行為による民事賠償や期待可能性の解釈の厳密性など、色々問題なのはたくさんある。」

鼎「たとえ詐欺によるものであっても、一度手形に定式で署名してしまったら、絶対に支払い義務を免れる事はできないという手形法の厳格すぎるルールはすごく有名だよね。」

逆沢「私には手形法がどうこう言われてもさっぱりだし、まして共同不法行為とか期待可能性とか、意味不明の単語を並べられても困るんだけど・・・。」

愛原「共同不法行為による民事賠償ルールとして、過失の割合に関係なく、不法行為をした者全員が等しく賠償の全責任を負うというものがある。分かりやすく言うと、たとえば5人がかりでリンチされた被害者は、5人おのおのがそれぞれ殴った程度の度合いに関わらず、5人の内、誰にでも損害賠償が請求できるという事。たとえば殴られた事による治療費や休業補償や慰謝料等が合わせて100万円だとすれば、一人に100万請求しても良いし、全員に20万ずつ請求しても構わない。もちろん50万、30万、20万、0万、0万といったマニアックな分担請求しても一応、構わないといえば構わない(請求額が巨額で、とても全額回収が見込めないケースなどを除いて、滅多にみられないけど)。」

逆沢「殴った程度の度合いに関わらずって事は、リンチにほとんど荷担しなかった加害者に100万全額請求しても構わないって事?」

愛原「もちろんOK。そいつが一番カネ持ってそうとか、そいつが一番ゴネずにカネ払ってくれそうと思ったなら、そいつに全額請求しても構わない。それが共同不法行為におけるルールだから。」

鼎「これも被害者の救済に視点をおいて、分かりやすさを追及した結果のルールなんだよ。たとえば玉突き事故に巻き込まれた被害者が賠償請求をしようとしても、加害者となる車が複数あると、誰の責任が何%とか検証し出すと、すごく時間がかかるよね。だからとりあえず被害者の救済を最優先にするという視点から【加害者の内誰でも良いから、とりあえず被害者に全額賠償しろ。その上で賠償額を立て替えた人は、他の共同不法行為者に応分の求償をしても構わない】というルールになっているんだよ。」

愛原「だからたとえば嫁が不倫した場合、嫁と不倫相手の男の2人が共同不法行為者になる為、夫は嫁と不倫相手の男のどちらからでも(もちろん両方でもOK)慰謝料を請求できる。」

逆沢「・・・うーん。そのルールって美人局に応用できそうで怖いんだけど・・・。嫁にわざと不倫させて、引っかかった男からカネ巻き上げる事も出来るわけでしょ。そのルールだと。」

愛原「男が見知らぬ女とホテルに入った後、ヤクザ風の男が突然現れて【俺の女に手ー出すとはええ度胸しとんのぉー!!】とか凄んでカネを巻き上げるシーンはヤクザ系の漫画等でもよく登場するが、あれも共同不法行為という法的解釈からすると合法だから怖い。もっとも最初から仕組まれた美人局と立証できれば、それは単なる詐欺&脅迫行為だからそのまま支払う必要はないけど・・・。」

逆沢「うーん。共同不法行為・・・恐るべし。」

愛原「かつて神戸の大学院生がヤクザに集団リンチで殺された痛ましい事件があったが、この時も警察側の職務怠慢という名の不法行為が認定された為、ヤクザと兵庫県警による共同不法行為という扱いになり、最終的に兵庫県警は(ヤクザが本来支払う賠償金も合わせて)1億円近い賠償金を遺族に支払うハメになった。もちろん県警はヤクザにも応分の支払いを求めたいだろうが、多分ヤクザはそんなにカネを持ってないだろうから、事実上兵庫県警がヤクザが払うべき賠償金も含めてほとんど全て肩代わりした形になるだろう。」

逆沢「つまり県警の不法行為がたとえ1%しかなかったとしても、もしも遺族が県警に賠償金の一括支払いを求めたならば、全額支払う必要があるって事ね?」

愛原「うん。だから過失割合が0%か1%でもあるかは、非常に大きな分岐となる。1%でも過失を認めると、全額支払い義務の可能性が生じる。自動車保険や損害保険の会社が支払いの際に最も配慮するのも、この部分。被害者やその原因を作った第三者が1%でも過失を認める事で、関係する保険会社間で支払う額が大きく変わってくるからだ。」

鼎「ネットでも話題になった理不尽な賠償裁判の一つとして、校庭から蹴り出されたサッカーボールを避けようとして転倒した80代のお年寄りが、それから1年5ヶ月後に食べ物が気管に詰まって死亡したのを受けて、その遺族がサッカーボールを蹴った少年の親に賠償請求して、裁判所が1500万円の賠償を認めたというのがあるけど、これも共同不法行為のルールが災いしたのかなぁ?」

愛原「複数の記事を読むと、@少年側が他人に損害を与えた場合に備えた保険に加入している(但し保険会社と遺族側との示談が決裂した為、民事裁判に移行したという事情もある)。A原告側が【学校の責任を問うことで争点を増やし、審理が長期化するのは避けたい】として裁判の被告を少年と両親に限定した。・・・件などが触れられている。つまり少年に1%でも過失割合がある事と、少年側に支払い能力があると期待できる状況がある事と、学校や病院などを訴えるよりも面倒が少なそうという点を考慮して、老人の遺族側がターゲットを少年の親にしぼったという事だろう。もちろん少年の親は、共同不法行為者の一員であろう学校や病院相手にも応分の支払い負担を要求する事も可能かも知れんが、行政相手の裁判をしても相当しんどいし、この少年の家庭は大変な事になるだろうと推測できる。」

逆沢「つまり【誰が一番悪いか?】ではなく、【誰からお金をとるのが一番ラクか?】の視点で、賠償責任が発生してしまっているのが問題って事か? ヤクザよりは行政の方がラク。行政よりは損害保険にも加入している個人の方がラク。自分のヨメからカネを取っても(家庭内で循環するだけで)意味無いから他人の男から慰謝料をぶったくる。みたいな感じで。」

鼎「神戸の大学院生のリンチ殺人事件の時の県警の対応も相当ずさんだったけど、それでも県警側は一度は怠慢捜査を認めて遺族に謝罪したにも関わらず、裁判になった直後に【捜査は適切だった】と主張を翻して過失は0%といわんばかりに裁判で散々抵抗して何年もかけて最高裁まで争った程だし、行政相手の裁判はすごくしんどいよね。」

逆沢「1%でも過失を認めると、暴力団員らが賠償すべき額も含めて100%支払わなくてはならなくなる可能性が発生するから、それで県警も徹底抗戦したんだろうけどねー。」

鼎「結局最高裁でも県警は負けて、裁判費用かけた分だけ、より兵庫県民の負担が増えただけだけど・・・。」

愛原「兵庫県といえば、共同不法行為とは関係ないが、四国と本州を結ぶ連絡橋に対する出資金も、【誰からお金をとるのが一番ラクか?】の視点で決められているのか、実は兵庫県が最も多額だったりする。もっともカネを稼いでいる明石海峡大橋のお膝元なのに・・・。」

逆沢「ちゅうか、この手の大規模公共工事は原則、国の負担だろ。全国どこでも。」

愛原「首都高速・阪神高速・本四連絡橋以外の高速道路に関しては基本全額国の負担だが・・・、なぜ本四連絡橋が首都高速らと同列扱いなのかはよく分からん。さらに累計で最も多く負担させられているのが兵庫県で、以下広島県・愛媛県・岡山県&香川県(この両県は同額)、神戸市、徳島県と続き、高知県&大阪府&大阪市も兵庫県の2割程度だが負担している。まぁ高知県と大阪府と大阪市は、橋と直接隣接してないので払わされている事自体が不当とも解釈できるし、近郊だから払うべきという視点に立てばなぜ京都府や山口県などは免除されるのか?という解釈もできる。」

逆沢「つーか、神戸市ってなんだ? 政令指定都市という理由なら広島市や岡山市もそうだし。神戸市民は(兵庫県民としての分も合わせて)ぶったくられまくりだろ。まして四国から神戸・本州方面に用のある人は多いだろうけど、その逆は限りなくゼロに近いのに。」

愛原「取れるところから取る。叩きやすい所から叩く。そういう考え方は正直好きにはなれない。しかし政治の世界も法律の世界も、そういう流れになっているのが現実だから怖い。」

鼎「そういえばもう一つ。期待可能性というキーワードもあったけど、これは私も聞いたことがないけど、これはどういうものなの?」

愛原「こちらは少しマニアックな概念だから、知らなくても無理はない。えーと、まず日本の法律では、加害者側に責任能力があるかどうか?が重視されるのは知っているわな?」

逆沢「確か頭狂った人や13歳未満の子供が犯罪犯しても責任能力がないから、罪に問えないとか、そんなよく分からないルールがあったわね。そういうの?」

愛原「うん。期待可能性(期待不可能性)というのは、その状況が適法な行為が期待できるかどうかを吟味して、その可能性が無いと判断されれば(法を守るという責任を果たすのが状況的に不可能だからという理由で)無罪とすべきというものだ。具体例を出すと、上司などの命令者の指示でそれをやらざるを得ない状況であれば、それをやった結果犯罪になったとしても、罪に問われないという形になる。かつて1897年のドイツで、人に怪我をさせる恐れの高い暴れ馬である事を分かっていた御者が、その暴れ馬の使用を拒んだにも関わらず、雇い主がそれを認めなかった為、やむなく御者がその馬を使用していたら、案の定、その暴れ馬が通行人に怪我をさせた事があった。で、この裁判所がこの時に【職を失ってまで雇い主の命令に逆らうことは期待できない】という理由で御者を無罪にした例などがある。」

逆沢「あー、なるほど。要するに悪の独裁者の命令で、やむなく犯罪行為に荷担したとしても、その場合は罪に問われることはないという解釈ね。」

鼎「ファンタジーの世界でも、悪いボスに脅されて、やむなく犯罪行為に荷担させられる下っ端の人とかはたくさん登場するし、そういう法解釈が存在するのはすごく好ましいと思ったかも。」

愛原「ただ、日本の場合は、そう単純ではない。期待不可能性が争点となった裁判で一番有名な例として落田耕太郎さん殺人事件というのがあるのだが、この時のような例でさえ、日本の裁判所は期待不可能性を認めず、無罪としなかった程だ。」

鼎「うーんと、落田耕太郎さん殺人事件というのは確か、落田さんと保田さんという二人の男性が、オウム真理教のサティアンに隔離されていた保田さんの母親を救い出す為に決起したもののオウム側に捕まって、それでオウムのボスである麻原彰晃が保田さんに【落田さんを殺すなら命を助ける】と条件提示してきたのを受けて、やむなく保田さんが落田さんを殺した事件だったよね。」

逆沢「ファンタジーではありがちな展開だけど、こういうのは仕方ないんじゃない? 殺さなければ殺されるような展開なんだし。」

愛原「ところが日本の裁判所はそう判断しなかった。期待不可能性を認めず(要するに法的解釈としては【保田さんを殺す以外にも他に適切な方法はあったはずだ】と判断された事になる)保田さんは執行猶予つきながら有罪が確定した。」

逆沢「うーん。執行猶予つきというのは、マシなのかも知れないけど・・・。」

愛原「執行猶予すらつかなかった例の方が多い。麻原彰晃の指示に従って犯罪行為に関与した信者達は、死刑を上限にほぼ例外なく実刑確定。埼玉愛犬家殺人事件などでも、無理矢理犯罪行為に荷担させられていた山崎某の出頭が決め手になって事件の概要が明らかにされたが、やはり実刑。北九州監禁殺人事件でも主犯格の暴力などによる洗脳行為が争点とされたが、やはり認められず。今、取調中の尼崎の遺体遺棄事件などもおそらく主犯格の脅迫行為などによる洗脳による期待不可能性はおそらく認められないと思われる。」

逆沢「洗脳であれ、脅迫であれ、暴力であれ、どんな理由であっても、日本では犯罪に荷担したらアウトって事か? あー、そういえばこのコーナーでも、似たような事件をネタにした事があったような。確か宮城県石巻市で起きた少年二人による殺人事件で、うち一人が主犯格に脅されてやむなく荷担したケース。」

鼎「あの時も、ネット住民の中にかなり過激な厳罰思想の人がいて、そういう意見が上位に占めてたけど、これが日本人の主流的な考えだとしたら、すごく怖いと思ったかも。」

愛原「その人にやむを得ない理由があろうと無かろうと関係ない。罪を犯したなら裁かれるべき。失敗をしたなら非難されるべき。敗者は強者に蹂躙されるべき。人を不快にさせたら許されざるべき。そういう単純明快な善悪二元論が日本では幅を効かせているのかも知れない。」

逆沢「分かる分かる。日本では上司や荷主の命令でやむなく違法なトラックやバスの運転をしてる人も多いけど、それで事故を起こしたらまず道交法違反で捕まっちゃうもんねー。上のドイツの御者さんみたいに、無罪には絶対ならないというか。」

鼎「つまり日本では、期待可能性という法学上の概念は事実上存在しないって事かなぁ?」

愛原「軍人や警察官を初めとする公務員だけは例外だけどな。公務員が上司の命令を忠実に守ってその結果、不法行為になったとしても、それが理由で罰せられる例はほとんどない。この場合、賠償するのは国や県や市といった公共団体・・・つまり税金で賠償となるケースがほとんど。そういえば今週末に香川県警が尼崎死体遺棄事件に関する不手際を認めたという記事もあったが、当時、適切に捜査すべきなのにそれを怠った責任者は既に退職している為に懲罰(停職・減給・戒告など)は不可能であり、その部下も(その上司の指示に忠実に従っただけだからか)一切懲罰しない旨の記事があったが、公務員だけは上司の命令に忠実に従ってもOKらしい。昔、とある軍人が部下を率いて6歳の子供を含む民間人一家3人を不法に殺害して事件になった時も、部下は上官の命令に従っただけだからという理由で不問になったそうだし。」

逆沢「うーん。私達民間人が、上司の命令でやむなく違法運転(極限の疲労状況での運転、過重積荷状況での運転など)をして事故を起こしたり、麻原彰晃や松永太といった凶悪犯に洗脳・脅迫されてやむなく事件に荷担させられても、無罪にはまずならないのに、本当に公務員だけ恵まれすぎてるわねー。」

愛原「まぁ公務員だけは例外だが、一般に日本人はモブの他人に対する情愛が薄すぎる傾向がありそうだ。だから凶悪犯に脅されたり、悪質な詐欺師にダマされたり、極限精神状況に追い込まれた人間が問題を起こしても、自業自得の一言ですぐ片付ける。詐欺に引っかかる方が悪い。凶悪犯と関わってしまった方が悪い。ブラック企業に雇われた方が悪い。イジメられたり体罰される方が悪い。みたいな感じで。」

逆沢「そんな風に言ったら、みんな悪い人ばかりになっちゃうじゃん。加害者も被害者もみーんな悪いって事になっちゃったら。」

鼎「加害者も被害者もみんなそろって悪の連帯責任を背負わなければならない世の中って、すごく心がすさみそうで嫌だと思ったかも。」

逆沢「つーか、正義の味方も過労死しそうだわ。誰も彼もみんな悪い奴ばかりだと。0.1%でも過失があれば最大100%の責任を取らなければならない。脅されたりダマされたりしてやむを得ない場合でも責任を取らなければならない。悪い奴と同じコミュニティーに所属しているという理由だけで心ないネット住民に非難されなければならない。そんな世の中だと、果たして何人が綺麗なままでいられるのだろうかと。」

愛原「ま、俺は日本人の誰かが悪さをしたら日本人全体が連帯責任を取るべきという考えには属さないし、同じコミュニティーに属する他人が何をしようとも、そいつに対する管理責任もないのに責任を感じる必要もないと感じているが。そんな歪んだ思想に染まると、最終的にはダブルスタンダードでもしない限り、ぜーんぶ自分に跳ね返ってくるだけなんだから。」

鼎「確かに本当に悪い奴を一人二人罰しただけで世の中がよくなるとは思えないけど、気に入らない奴を全部懲らしめたらいいという発想も怖いよね。まるでドラえもんの【どくさいスイッチ】の世界というか。」

逆沢「悪い奴を野放しにはできないけど、メリハリは欲しいわね。世の中にはやむを得ない理由もないのに悪事を自ら主導できる人もそれなりにはいるけど、大半の人間は小心者であったりして、集団ではイキがっていても、自分一人では大した事もできないチンピラまがいの人も多いし。集団の空気というか、同調圧力に流されるだけの人も多いから、そういう不穏な空気を醸成する根源を絶つだけでも、状況が改善するケースも多そうだし。」

愛原「そう。なんでも連帯責任を負わせるのではなく、何が問題なのか?を吟味してそこにメスを入れる発想は必要だと思う。連帯責任を広く負わせようとすればするほど、その矛先はどうしても社会的弱者に向かうからだ。本当に悪い奴に賠償させるのではなく、一番社会的に弱い奴に賠償させる。本当に悪い奴に謝罪させるのではなく、最も弱そうな奴に謝罪させる。中にはライバルを蹴落とすチャンスとばかりに、無理矢理ライバルに連帯責任を背負わせる例すらある。」

逆沢「連帯責任といえば、義務教育時代のグループ活動を思い出したかも。ほら、班全体で掃除とか物作りとかするんだけど、その班の中にはどうしてもサボリ癖のある人がいて、最終的には班の中の誰かがそのサボリ癖のある人の分までケツふかなくちゃならなくなったりして。」

愛原「人間には得手不得手があるから、運動の苦手な人間がリレー競争で足を引っ張ったり、勉強の苦手な人がチーム得点で足を引っ張りするのは仕方ない。そういう助け合いの視点での連帯責任まで否定はしない。だが桜宮高校で自殺したキャプテンのように、部のメンバーがミスをする度に自分一人が全責任を背負って殴られるようないびつな連帯責任はさすがに困る。だが現実には、こういう連帯保証人的な連帯責任(連帯といいながら、実質的には一人が他のメンバーの責任を一身にかぶる)パターンも非常に多い。掃除当番といっても、結局は一部の人だけが班全体の責任を背負って黙々とやってるだけみたいに。」

逆沢「連帯責任の名の元に全体に責任が拡散しているかと思ったら、実は立場の弱い誰かに責任が置き換えられているだけのパターンも多いって事ね。主犯格Aの全責任かと思ったら、いやBやCにも少しくらいは責任はあるはずと言う論理に置き換わって、やがて立場の弱いBが全責任をかぶるように論理がすり替わっていくと。」

愛原「主犯格Aだけでは賠償できない場合に、BやCも巻き込んで、一番カネのあるBが最終的に全責任をかぶるというシチュエーションは、連帯保証人や共同不法行為がらみではしょっちゅう起きるパターンだから本当に困る。」

鼎「銀行や農協の放漫経営のせいでバブル破綻が起こったけど、銀行や農協を破綻させる訳にはいかないから、いつの間にか国民全体にも責任があるような流れになって、気がついたら銀行や農協の幹部は誰一人責任を取らないまま、国民の税金で損失補填だけされるようにすり替わっていく構図みたいだよね。」

逆沢「それ、原発問題と同じ構図じゃん。原発推進派が招いた悲劇であるにも関わらず、いつの間にか原発推進派は何の責任も取らずに、気がついたら反原発派の抵抗で電気料金が高くなってると論理がすり替わっているような感じね。」

愛原「冷静に考えたら、原発被害による賠償金も原発運営に必要な地元対策費(税制優遇なども含む)や使用済み核燃料対策費用などもほとんど国民の税金から出てるのに、原発以外の発電所の経費(火力発電の燃料費など)だけはそのまま電気料金にストレートに転嫁されてる時点でおかしいと気付くべきなんだけどな。仮に国民の税金による原発維持経費負担がゼロならば、福島原発の賠償金だけで電気料金は数倍になって(もしくは電力会社破綻)、どっちが高く付くかくらい速攻に分かるはずなのにな。」

鼎「爆発した原発はアメリカ製のものだけで同じ場所に立地する日本製のものは全て無事だった訳だから、製造者責任としてアメリカ側が最大の責任を負うべきと主張する人もいるけど、これも【暴力団が怖いから、福岡県の人に責任を転嫁します】みたいなノリで、責任分散や責任転嫁が画策されているとしたらすごく恐ろしいよね。本当に悪い人を非難するのではなく、一番叩きやすい人を叩き、一番ゼニを取れる人から取るみたいな流れで責任の所在がすり替わるのは。」

愛原「本当に悪い奴(及びそれをかばう人)が連帯責任を主張したら、それは責任を分散させる事で自分達だけが背負うべき罪を軽減しようという意図であり、あるいは責任を別の誰か(社会的弱者であったり、自分に敵対するライバル陣営であったり)にすり替えようとする流れだと警戒した方がいい。連帯責任というのは、関係者全員で責任を応分に背負う事と必ずしもイコールではない。関係者の中で一番立場の弱い者に責任がすり替えられるケースの方がはるかに多いのだ。【連帯責任だから、みんなで助け合って掃除をしましょう】がいつの間にか【俺は掃除をサボるから、お前が俺が掃除をサボった分も責任もってちゃんと掃除しておけよ】に変わっていく感じで。」

逆沢「たった一人で掃除を頑張っていたにも関わらず掃除時間中に掃除を完了できずに担任の先生に怒られたりしたら、絶対にワリに合わないわ。でもこういう時ほど、桜宮高校の某キャプテンよろしく、最終的に全責任をかぶせられそうね。結局、放課後に掃除をやり直しになって、でもサボリの常習犯は放課後にも姿を現さないだろうから、事実上一人だけ放課後に居残り状態になると。」

鼎「こういう時は、連帯責任じゃなくて、ちゃんと正当に個別に責任を問うて欲しいのに・・・。」

愛原「効率だけを考えたら、悪いけど敵対したら面倒くさい奴に無理矢理謝罪や賠償をさせるよりも、社会的弱者やクソ真面目だけが取り柄の奴に全責任を押し付けた方が手っ取り早いかも知れない。だがそれでは問題は解決しない。それどころか【悪貨は良貨を駆逐する】言葉のごとく、誠実な人間だけが不当に過剰労働させられて過労死したり、財産を失ったり、自殺に追い込まれたり・・・。その一方で他人に責任転嫁したがるようなずるく不誠実でダブルスタンダード上等な人間だけが生き残りかねない。そんな世の中は困る。」

逆沢「弱者に責任を押し付けて正義の味方ヅラするようなチンピラではなく、ファンタジーの勇者のように手ごわくとも元凶部分にしぼって正しく一撃を加えられる側になりたいものね。無関係の他人や組織の末端だけを罰しても自己満足やガス抜きにしかならないけど、ガンの手術をするみたいに、元凶部分を上手く取り除くことが出来れば、それだけで問題が大きく快方に向かう事も多いから。」

(2013/04/22管理人注〜後日、塩崎委員と東電幹部の間に行なわれた国会答弁によると退職金5億円というのはデマで、実際には4000万円強だったらしいです。これを受けて過去の記事の当該部分に作者注を追記しました。)












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