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愛原様のたわごと(13年9月15日)






鼎「祝! 2020年東京オリンピック開催決定!」

逆沢「テレビでは割と大きなニュース扱いになってるようね。ネットでも、アンチを黙らせる程度には祝福ムードの同調圧力くらいは感じるし。もっとも新聞はそれほどでもなさそうだけど。下手すると汚染水問題の方が大きく取り上げられているし。」

愛原「まぁ、テレビとネットと新聞では、同じメディアでも、編集者が気にする先がまったく異なるからな。通常の場合は、テレビも新聞もネットも、ニュースソースが大手マスコミでそろってる事もあって、3媒体で大きな差はでにくいが、今回は珍しく差が出てるように思われる。」

逆沢「このうち、有料ソースは新聞だけか。あとは無料ソース。有料ソースと無料ソースの差については、去年の3月18日のたわごとでネタにした事もあったけど。」

愛原「ネットでも新聞でもそこまでは話題にされないのにテレビではやたら一押しされるテーマという意味では、東京スカイツリーに次ぐ、新しいテレビ業界のオモチャってところだろうな。東京オリンピックは。」

逆沢「有力なスポンサーでもついたのかねー? それともそのアテがあるか?」

愛原「そりゃあ、アテはありすぎるだろう。今から地道に盛り上げておけば、高い視聴率も見込めるし、そうなればより高額なスポンサー収入も見込める。あとこれは業界の裏話的なネタになるが、今はサッカー日本代表の試合の中継をするにしても、試合開始時間よりも30分以上前に放映開始して、一見どうでもいい【○○選手の母校に設置された特設応援会場からの中継です。ここでもすごく盛り上がっていますよ!】みたいなのをよくやるが、あれも時間稼ぎと盛り上げ作戦の一挙両得を狙った演出な。」

鼎「そんな業界ネタはおいといて、もっと素直に開催決定を祝福すればいいのに・・・。」

愛原「悪いな。俺は東京オリンピックにも東京スカイツリーにも上野動物園のパンダにも全く恨みはないけど、あまりに露骨なえこひいきをされて、素直に祝福ムードになれる程、人間ができてないのだ。まぁ外国でやるよりはずっと楽しみなのは間違いないが、わだかまりのかけらもないといえばさすがに嘘になるので、今は静かに応援させてくれ。無理矢理たとえれば、自国の勝利を祝う気持ちもあるが、無残に散っていった同胞の無念を哀悼したい気持ちの方が上回っている兵士のような気分だな。」

逆沢「大阪も名古屋も、政府をはじめとした国全体の協力も得られず、孤軍奮闘を余儀なくされ討ち死に。福岡や広島などは候補地に名乗りを上げるも、挑戦権すら得られず、戦う前から強制撤退。その一方で、東京だけは福岡を押しのけて挑戦権をゲットするも惨敗して、それでもなお再チャレンジの機会を与えられ、さらに政府から皇族関係者から東京キー局の後援も受けて、汚染水問題もなぜか完全にコントロールされている事になったりして、ものすごいバックアップぶりだったからねー。」

愛原「【一将功成りて万骨枯る。偉大な勝利をもたらせた一将を心から祝福したい気持ちはあるが、その影で枯れ果てた万骨に無関心な人間ではいたくない。一将の華麗な勝利の裏には、無残に使い捨てにされた兵もいれば、功績を得る機会すら与えられなかった他将もいるだろうから。」

鼎「みんなが笑顔になれる完全勝利ばかりならいいけど、現実には多くの犠牲の上に立つギリギリの勝利になるケースも多いよね。」

逆沢「多くの犠牲を出しても、その結果、勝てればまだしも、大きな犠牲を出した上に惨敗したら悲惨だしねー。石原慎太郎が東京都知事だった時も今回に大きくは劣らない多額の資金をかけて誘致活動をしていたみたいだけど、それだけの資金をかけても惨敗という結果に終わったし。」

愛原「そう。いろんな勝ち方があるように、いろんな負け方もある。という訳で今回のテーマは、【撤退戦術(上手な負け方)】だ。」

逆沢「おいおい。いくら何でもよりによって、景気のいいニュースでにぎわってる時に負け戦の話かよ?!」

愛原「うん。でも、景気が悪いときにさらに景気が悪くなるような話題をするよりは合理的だろ? 勝ったからこそ兜の緒を締める話題という事で。もっとも厳密には、勝負ごとをするにあたっては、負けた場合の事も先に考えておくのは、常識だけどな。」

鼎「でも確かアントニオ猪木さんは、試合に出る前にレポーターに負けた場合のことを聞かれた途端に、【出る前に負けること考えるバカいるかよ!】とか激高してそのレポーターをビンタしたあげく、「出てけ! コラ!」とか言って控え室からそのレポーターを追い出したなんて話を聞いた事があるけど。」

逆沢「勝負師といわれる人は、縁起を担ぐからねー。負けた場合を想定しない人って、案外多いんじゃないの? 軍人や政治家も含めて。」

愛原「負けた場合を想定しない軍人や政治家は最低だろ?」

逆沢「いや、でも実際にそういう人は多い気がいるのよ。【敵は強いから、油断するな】とか【このままではかなり不利だ】とか進言した側に対して、【みんなの士気が下がるようなことを言うな!】とか【縁起でも無いことを言うな!】と激高して返す手合いは。」

鼎「でも負けを前提に戦略を練ると、どうしても守りに入っちゃう事も多いと思うよ。その結果、犠牲や損害を過度に恐れて、兵力や資金を出し惜しんで、勝てる戦にも勝てなくなっちゃったりする事もあるだろうし。」

逆沢「なるほど。【兵力の逐次投入の愚を犯す】という奴ね。商売の世界でも、カネをいっぱいかけたからといってその分だけたくさん売れる訳では無いけど、だからといってカネをケチり過ぎたら、死に金になっちゃう事は多いし、投入する割合をどうするかは本当に難しい問題だわ。」

愛原「何事にも適正量とか適正額というのはあるからな。人件費一つとっても、その適正額を算出するのは難しい。安く抑えすぎると人材の流出や質の低下を招くし、だからといって給与を2倍にしたからといって、営業マンが今までの2倍の契約を取ってくる事なんてありえないからな。軍事の世界でも、兵力が足りなければ戦にならないが、だからといって動員する兵力が無駄に多すぎると、今度は兵糧が足りなくなったり、行軍スピードが著しく遅れたり、陣が混乱させられた途端に味方の兵が邪魔になって逃げ道を失ったり、激しく同士討ちさせられる事も出てくるからな。」

逆沢「どんなにカネをかけても負ける時は負ける。どんなに兵力を増やしてもそれが逆にマイナスに働く事もある。そしてかけたカネが多いほど、失った人命が多い程、負けた時のダメージが大きい事も自明。でもその自明な事が理解できない人も世の中には結構いるからねー。」

愛原「何を恐れるかの基準の差だろうな。積極的な考えをする人は、【中途半端な戦いをして負ける事は恥】と考え、【全力で戦った結果、負けたなら仕方ない】とも考える。だから兵力を惜しまず、予算も惜しまず、みたいな発想になりやすい。逆に慎重な考えをする人は、【被害が甚大であれば、そんな勝利に意味は無い】と考えて、損害やコストを常に計算に入れたがる。だがその結果、兵力の逐次投入の愚を犯す事も珍しくない。前者は本気で勝負しないまま負ける事を第一に恐れ、後者は損害を第一に恐れる。」

鼎「でもよくよく考えてみたら、損害を出さない最良の選択肢は、【はじめから勝負を挑まない】事になるような気もするけど・・・。」

逆沢「その場合は、良くて現状維持。普通はじり貧になるわね。何もしなくても、建物は老朽化するし、人間は老いるし、貯金も減っていくだろうし。自分のライバルが新製品を開発したり戦力を増強したりして力をつければ、相対的に自分の地位も低くなるだろうし。」

鼎「そういう発想は、少なくとも勝負師といわれる人はしないよね。」

逆沢「分かる分かる。特に確率論だけを重視して、勝つ努力をしない人を見ると、ああ、コイツは勝負ごとには向いてないわと感じるもん。」

愛原「それは俺の事か? もっとも言いたい事は分かるけどな。確率論を重視する人は、宝くじも馬券もまず買わない。パチンコもやらないし、株などに投資する事にも比較的消極的だ。なぜなら確率論だけで導き出せば、どうみても負ける可能性の方が高いからだ。だからこういう分の悪い勝負にはまず挑まない。だから【はじめから勝負を挑まない】のが最良の選択肢とも考える。」

逆沢「けど勝負師はそういう発想はしないのよねー。株で儲けると決意したなら、ちゃんと株の勉強をして勝てる銘柄を買おうとする。競馬で儲けようとするなら、馬のコンディションや騎手の能力や相性を調べたり、天候条件や過去の戦績なども調べて、少しでも勝率の高い馬券を買う。そして才能のある人間は、ちゃんと黒字を出してみせる。いくら確率的には悪くとも。

鼎「いくら確率的に勝率は低くとも、誰かが勝ってるなら、自分がその勝者になる可能性はある訳だし、その可能性を信じて努力できる人間こそが真の勝負師なんだと思うよ。」

逆沢「そう。プロ野球選手として成功できる人が一握りなのは分かってるけど、それでも自分がその成功者になれると信じて頑張れる人こそが、勝負師なんだと思うわ。漫画家でも芸能人でも起業家でも同じ。確率の厳しさを才能と努力で補える人こそ、勝負師を名乗るにふさわしいというか。」

愛原「ただ勝負師の全てが、成功する事はありえない。才能が足りない事もあれば、運や巡り合わせが悪い事もあるし、それ以上に多いのが努力(or知識)不足に拠る失敗だな。パチンコなどで身を滅ぼすタイプは、ほぼ100%が後者だろう。」

逆沢「まぁ彼らは彼らで、少しでも勝率の高いお店や台を探したり、どこからともなく金を借りてきたり、その人なりに努力はしてるかもしれないけどねー。ただその努力の方向がすごくおかしいだけで。」

鼎「あるいは単なる楽観論者という事もあると思うよ。何の根拠もなく【いくらなんでも、そろそろ勝てるだろう】とか【今度こそは絶対に上手くいく】と信じられたり、あるいは【負けても、まぁ何とかなるだろう。その時はその時】みたいに楽観的に構えられたり。」

逆沢「負けた場合の事を深く考えないというのは、勝負師共通のものの考え方だとは思うわ。楽観論者でないと勝負師にはなれないというか。ただ実際に勝てるかどうかは、才能や努力や運次第だと思うけど。」

愛原「逆を言えば、才能や努力で確率的な不利を補える力量がない人間が、安易に勝負師に徹するのは危険きわまりないという事かな?」

逆沢「そりゃ危険というより無謀だわ。」

鼎「才能や努力面で常人を遥かに上回る力があっても、上手くいかない事も多いのが勝負の世界だよ。それくらい勝負の世界は厳しいのに・・・・。」

愛原「その通りだな。これはイケると踏んで勝負を挑んでも、想定外に苦戦を強いられる事も世の中には多い。あるいはこちらは勝負したくないのに、無理矢理勝負の場に引きずり出される事も多い。こういう時に、我々はどう対応すべきか? まずはそれを考えてみよう。」

逆沢「戦争や経済の世界だと、敗色濃厚と分かっていながら無闇に兵やカネをつぎ込むのは、さらに損害を拡大するだけの愚策中の愚策という事になるんだろうけどね。」

鼎「けど敗色濃厚でも、最後まで勝利を諦めない事が最良の選択肢という事もあるよね。スポーツの世界とかは特に。」

愛原「スポーツの世界なら、わざと負ける必要性が薄いからな。たとえ徒競走で1位になれなくとも、だからといってわざと手を抜く必要性はまるでない。仮に1位が先にゴールしてても、最後まで頑張って走り抜けば、2位か3位になれる可能性はあるし、それすら無理でもビリになるのは避けられる可能性もあるし、ビリ必至な状況でも最後まで全力で走り抜く事で、その努力を認められるかも知れない。逆にどうせ勝ち目がないからと言ってわざと手を抜こうものなら、非難されたり軽蔑される事によるデメリットの方が大きいかも知れない。」

逆沢「野球とかなら、相手のピッチャーが突然崩れる事もあるし、最後まで諦めずにプレイを続けてたら、最後の最後で大逆転できる事も珍しくないしね。」

鼎「スポーツとかだと、戦況が有利であろうが不利であろうが、最後まで全力でプレイする以上の最良はないだろうから、いわゆる撤退戦術なんて考える必要は無いよね。」

愛原「1試合1試合の短期でみれば、その通りだな。だがペナントレースのような長期スパンでみれば、話は大きく違って来るぞ。いわゆる撤退戦術が非常に重要になってくる。」

逆沢「ああ、確かにね。プロ野球のペナントレースでは、敗色濃厚になると、敗戦処理用の投手に投げさせたり、二軍から上がってきたばかりの選手をお試し感覚で使ったりする事も多いしね。」

愛原「高校野球などでも、投手の酷使を避ける為に、楽に勝てそうな相手にはエースを投げさせずに温存する事も多い。こういう起用は、相手からみれば失礼かも知れないし、エースが投げない事による格下相手の敗戦リスクもあるが、それでも長期スパンで考えれば大事な戦略だ。」

逆沢「1−0でも10−0でも同じ1勝だし、2−3でも2−10でも同じ1敗だからね。敗色濃厚な時や楽勝ムードの時にまで、むやみに主力を酷使する必要なんか全然ないからね。」

愛原「敗色濃厚な時に無駄にあがくのではなく、もうその試合は捨てて、次の試合に備えるという考え方は非常に大事だ。軍事でも、投入した戦力が常に返り討ちに遭うような危険な前線に踏みとどまるのではなく、そういう時は自軍に有利な位置まで戦力を下げる戦略は有効だからな。」

鼎「政治の世界でも、撤退戦術はみられるよね。政権交代による野党転落が濃厚だった麻生政権が、選挙前までに機密費を使い込んだりとか。あれで政権交代直後の民主党は機密費の残額がない状態での政権運営を余儀なくされたし。」

愛原「その視点でみれば、野田の12月解散は利敵行為そのものだったな。1月に入ってから解散すれば、民主党の予算案がほぼそのまま通って、政党助成金もガポガポだったのに。12月に解散した為、予算案自体も自民党案に塗り替えられて、1月1日時点での議席数で1年分の配分が決まる政党助成金も極めて自民党に有利で民主党に不利なものになってしまった。まぁ国民にとっては、その方が良かったかも知れないけどな。」

逆沢「なるほど。つまり麻生は撤退する前に稲を青田刈りして次の支配者が活用できなくなるような撤退戦術を駆使し、野田は逆に稲刈り直前の田んぼをそのまま次の支配者が活用できるように綺麗に残したまま撤退したって形になる訳ね。麻生が腹黒いのか、野田が甘ちゃんなのかはよく分からないけど。」

愛原「ただ撤退戦術は、自分が負ける事を前提にした戦術なのは理解しておくべきだ。たとえば麻生政権がもしも選挙で鳩山民主党に勝ってしまった場合、以降の麻生政権は機密費を先に使い込んでしまっている為、以降は機密費無しでの厳しい政権運営を余儀なくされる。つまりダメージが自分に跳ね返ってくる。(但し、厳密には機密費は用途不明な為、本当に麻生政権が解散前に機密費を使い切っていたかどうかは不明。もしも機密費を使い切っておらず、単に自民党本部の私金庫なりにこっそり移し替えていただけの場合は、仮に自民党が選挙で勝った場合はその金庫のカネをこっそり官邸に戻して従来通りに使用すれば問題はない。もちろん自民党が負けた場合は、そのカネは官邸に戻さずちょろまかす形になる。)」

逆沢「つまり敵に土地を奪われる前提で、青田刈りを強行したのに、もしも敵がその土地を奪い取りに来なかった場合は、それによるダメージが自分たちに跳ね返ってくる事もあるわけね。」

愛原「撤退戦術を選択する事によるデメリットは、他にもいっぱいある。中でも大きなデメリットとしては、(主に軍事部門で顕著な傾向ではあるが)【撤退戦術は普通に勝つよりはるかに難易度が高い】という事。」

逆沢「そりゃあ難しいわ。なにが難しいって、撤退戦術中は主力が足りないから。」

愛原「プロ野球でもリアル軍事でも、勝ちに行く時は主力を含めたほぼ全軍が戦いに出る。だが撤退戦術となると、主力はできるだけ無事に退避させたいというか、温存しないといけないから、戦いの矢面に立つのは二流以下であったり、もしくは少数であったりする事が多い。そして何よりも厄介なのは、相手の方がはるかに強い事だ。」

逆沢「相手の方が弱かったら、普通に勝ちにいけばいい事だしねー。そりゃ。」

鼎「勝ち目がないほどに強い相手に、二流以下であったり少数でしかない自陣営が立ち向かわなくてはならないなんて、すごくつらすぎると思うよ。」

愛原「だから撤退戦術を上手く成功させるのは、普通に勝利をつかむよりも、はるかに難易度が高いと言える。上手に負けるというのは、普通に勝つよりもはるかに難易度が高いと置き換えてもいいかも知れない。」

鼎「そのせいか、撤退戦術を巧みに成功させた人は、特に実力を再評価されたり賞賛される事も珍しくないよね。金ケ崎退却戦で勇名を馳せた秀吉さんとか。小説だと銀英伝のヤン提督も、エル・ファシルやアスターテの撤退戦で一気に階級と名声を上昇させているし。」

逆沢「プロ野球の世界でも、同じ事が言えるわ。敗戦処理のために出した無名(もしくは二流扱い)のピッチャーが、勢いに乗る敵チームの後続をピシャリと抑えたりしたら。」

愛原「敗戦処理や撤退戦術を任される人材というのは、少なくとも首脳部からすれば主力外の二流三流(使い捨てても惜しくない)の人材である事が多いが、そいつが想定外の大活躍をするのは、個人的にもすこぶる気持ちがいいし、組織としても思わぬ掘り出し物が見つかったという感じで大万歳だろう。組織の首脳部がそいつを嫌っていない限りは・・・。」

逆沢「ただ一般論として、いつ戦死してもおかしくないような激戦地に(もしくは酷使で)使い捨て扱いで配属されるような人材は、首脳部から煙たがられているケースも多そうだからねー。うっとおしい奴だからこの機会に処分してしまおうと考えたのに、そいつが英雄として帰還を果たしたら、それはそれで嫌な顔されそうな気もするわ。まぁファンタジーものなら、それはそれでドラマになるけど。」

愛原「ま、いずれにしろ撤退戦術を上手く成功させるのは、普通に勝利をつかむよりも、はるかに難しい場合が多い。同じ事をしつこく言い続けている感はあるが、決して見落としてはいけないポイントでもある。」

逆沢「だったらなおのこと、勝負師が負けた場合を軽視してまで勝ちにこだわるのも分かる気がするわ。上手に負けるよりも普通に勝つ方がはるかに楽なら、やっぱり楽な方を選びたいし。まして負けるよりは勝った方がプラスなのも、ほとんどの場合は上だろうから。」

鼎「撤退戦術を選ぶのは勇気もいるよね。撤退戦術を選んだ時点でその場で勝つ可能性を放棄する事にもなりかねないし、しかも撤退戦術に成功するとも限らないし。」

逆沢「撤退戦術に失敗したなら、きっと【逃げ遅れて捕まるような、こんな不様な結果になるなら、最後まで勝利をあきらめず、最後まで全力で戦うべきだった。もしかしたら勝てたかも知れないのに。】と後悔すると思うわ。いや、仮に撤退戦術が上手くいっても、【こんなに上手く撤退できるくらいなら、撤退戦術なんて考えず、普通に最後まで勝ちを目指して戦ってた方が良かったんじゃないか?】と後悔する可能性はあるかもね。」

鼎「撤退戦術に成功しても失敗しても、後で【勝ちを信じて突き進んだ方が良かったのではないか?】と後悔する可能性があるのも嫌だよね。」

逆沢「そうそう。特に勇ましい性格の人ほど、【最後まで本気で戦って負けたなら悔いは無い!】とか考えそうだし。最後まで勝ちにこだわって負けたなら悔いはないけど、撤退を選んだしまったら、その時点で撤退に成功しようと失敗しようと後悔しそうな気がするわ。」

愛原「うーん。撤退戦術の不人気ぶりがよく分かるなぁ〜。」

逆沢「そうでなくとも、【逃げる事自体が恥】という考え方もあるくらいだしね。」

愛原「金ケ崎で逃げなかった場合、織田信長も秀吉も家康もまとめてそこで死んでたかも知れないけどな。あくまで逃げる事自体は恥じゃない。」

逆沢「けど、変な逃げ癖がついてる人はやっぱり困るわ。私的には、逃げる事を恥と考えるような勇猛な人にこそ逃げる勇気を持ってほしいし、逆に逃げ癖がついてる人には最後まで諦めないでやり遂げる勇気を持って欲しいというか。」

愛原「理想はその通りなんだけど、なかなか難しいよな。勇猛な人に慎重になれというのも、臆病な人に剛胆になれというのも。」

鼎「一番多いのは、雰囲気に流されるタイプだと思うよ。バブル景気の時のようにイケイケドンドンの時に株や土地に派手に手を出して大ダメージを受けて、逆にデフレ不況の時には絶対に財布の紐を緩固くしてますますその流れを助長してみたいに。」

逆沢「それ、最悪のパターンだわ。慎重になるべき時に限って調子に乗って引き時を忘れ、勇気を持って踏み出すべき時に限って恐れて一歩も前に進まないというのは。」

愛原「逆に一番賢いのは、デフレの時に株を買い、バブルの時に株を売る奴だな。最近の経済動向でいえば、野田政権の頃に安い株を買って、アベノミクス機運が盛り上がっていた今年の春くらいに売るのが、1年サイクルではベストだったような気がする。」

鼎「みんなが買わない安い時に大量に買い込んで、みんなが欲しがる高い時に大量に売るのが最良なのは理屈では分かるけど、それを実際に実行するのは勇気がいるよね。」

愛原「現実には、バブル崩壊直前やホリエモンフィーバーのような一番株価が高い時に株を買って、リーマンショックの時のような株価が暴落してみんなが投げ売りしている時に一緒に投げ売りする人の方が、圧倒的多数だろうけどな。」

逆沢「私の場合はそこまで頭が良くないから、せめて慌てず柔軟でありたいわ。少なくとも状況が明らかに不利に変わっているのに、その変化に無頓着ではいたくないというか。」

愛原「全くもってその通り! 大して頭も良くない我々凡人が百戦百勝を望むなど無謀の極みであり、勝てると思った勝負ですらなかなか勝てないのが現実だ。だからこそ撤退戦術が重要になってくる。というか凡人だからこそ、撤退戦術が大切になってくる。」

鼎「本当に頭が良い人なら、負ける戦いなどはじめからしないだろうし、そうでない私達だからこそ、撤退戦術が大事になってくるというのはありそうだよね。」

愛原「その通り! たとえば我々凡人が株などの投機に挑戦する場合は、撤退ラインをあらかじめ決めておく事が重要だ。そしてその勝敗ラインに達した時点で、勝ってても負けてても撤退する。こうすれば少なくとも最悪の事態を避けて、かつ勝敗ラインも本来よりも上昇させる事ができるだろう。」

逆沢「勝ってても負けててもって事は、たとえばプラスマイナス10万円を撤退ラインに設定した場合は、含み益が10万円に達した時点で、たとえさらに含み益が増えそうでも撤退しろという事か?」

愛原「その通り。さらに含み益が増えることを期待して長く持ちたい気持ちは分かるが、これは業界用語で言うところのアホルダーという奴で、長い目で見たら損をする確率も高い。というのもアホルダーは、含み益が出ている内は【少なくとも現時点ではプラスだし、今すぐ売らなくてはならないほど生活も切迫もしてないし、ずっと持ち続けていればさらに含み益が大きくなる可能性もあるから】と考えていつまでも手放そうとしない為、手放す時は含み損が出ている時だけになる可能性が高いからだ。あと含み損が出ている時に手放すのも勇気がいるが、手放すタイプが遅れると、ライブドア株のように紙くず同然になる事もあるので、マイナス10万円と最初に決めたなら、後でプラスに転じる可能性があっても、さっさと売った方がダメージが少なく済む可能性が高い。プロの投機家なら、それぞれ独自の理論があると思うけど、ドシロートが投機に手を出すなら撤退ラインだけは厳守した方が最悪の事態だけは回避しやすい。」

鼎「パチンコでも競馬でも課金ゲームでも通用する考え方だよね。3000円なら3000円。月3万円なら月3万円。額を最初に決めて、その額以上は絶対に使い込まないというルールで運用するというか。」

愛原「お金関係で破滅する人は、例外なくその方面での撤退戦術が破綻している。だから際限なくお金をつぎ込んだり、借金漬けになってそのまま破綻する。本人としては【すぐに取り戻せるから】とか【予算をほんのちょっとオーバーするだけだからこのくらいなら】とか【そろそろ当たるに違いない】とか【まだ逆転のチャンスはあるのに、こんな半端な所で自分から負けを確定させるのは嫌だ】とか考えて、軽い気持ちでハードルをゆるめてるようだが、その繰り返しがなし崩しの撤退戦術の破綻を招く。そうこうしてる間に撤退不能になって、勝算のほとんど無い最終決戦に挑むしかなくなり、そのほとんどは最終決戦に敗れて無残に散っていく。」

鼎「撤退戦術は、撤退できる余裕のある早い内に実行するのが、成功の秘訣だよね。」

逆沢「深入りすればするほど、撤退が難しくなるのは、軍事でも経済でも同じだわ。」

愛原「人間関係でも同じだ。誰かのポチになってる期間が長いほど、そのポチ状態すら抜け出すのも難しくなる。ポチにしている側はそれをアテにして、さらにポチをやめられないようにアメとムチを何重にもからませるし。イジメっ子とイジメられっ子の関係も、長期になればなるほど、ますますエスカレートして抜け出せにくくなって、最後はどちらかが死ぬしかなくなるような展開すらある。」

逆沢「そういえば、ポチで思い出したけど、TPP交渉も相当ヤバい展開になってるような気がするんだけど・・・。」

愛原「俺はよく分からない内から【あいつはどうせ失敗するに決まってる】みたいな決めつけをする人間は嫌いなので、今までは賛同も反対もせず期待だけしていたが、ここまで状況が悪くなると、真剣に撤退戦術考えて欲しいわ。特に対米交渉は0点に近い。あれでは関税自主権をアメリカに取り上げられてた幕末〜明治初期時代に逆戻りだ。国防の基盤である農業関係も大事だし、保険・金融・著作権あたりも、アメリカの言いなり同然でマジでヤバ過ぎる。」

鼎「安倍さんは、著作権に関しては【争点にならない】とか言ってるけど・・・・。」

愛原「だからヤバ過ぎる。アメリカ側の要求を丸呑みする気満々というか。というかそこは絶対に譲ってはいけない。そこを譲ると、いくら名目だけの公共工事参入権拡大や自動車関連の税を免除されても、トータル額で大赤字になってどうやっても差が埋まらなくなってしまう(アメリカのコンテンツ輸出額は他の輸出産業と比べても格段に割合が高いため)。さらに農業や保険関係でも譲歩を迫られる勢いだし(非軍事国家なのに金融と食料も抑えられたら、アメリカに抵抗する手段が一切無くなる)、正直、太平洋戦争時の日米軍事力の差以上の交渉力の差をモロ感じている。東南アジア方面にも、日本が東南アジア側についてアメリカに譲歩を迫る戦術でいくかと思ったら、日本政府はアメリカに追従して東南アジア側に譲歩を迫るような交渉をしてる有様だし、こんな事をしてたら、対米交渉時に日本の味方に回る国自体なくなってしまいかねない。そんな事をしてたら、日米連合にその他の国が敗れた後、日本もアメリカの交渉力に一方的に押し負けて、最終的にアメリカの一人勝ちになりかねん。俺は鳩山がしようとしてできなかった対米追従姿勢からの決別を安倍が実行してくれる事を期待してTPP交渉にも期待感を持っていたが、まさかここまでまずい展開になってるとは思わず、色々後悔している。」

逆沢「日本は、下手な条件でTPPを締結するくらいなら、できるだけ早い内に撤退戦術に切り替えた方がいいってか?」

鼎「元々、安倍さんは選挙前に日本に有利な条件での交渉がまとまらなければ、締結段階に引きずり込まれる前に速やかに離脱する事を公約してたし、一度締結してしまうと途中脱退も困難になるから、撤退戦術の用意くらいは交渉前からちゃんとしてくれていると信じているけど・・・。」

愛原「交渉に深入りするほど、抜け出せなくなる可能性が高い。つうか弱者であればあるほど、撤退戦術は常に頭に置いておくべきだ。これは軍事でも経済でも人間関係でも同じ。」

逆沢「撤退戦術だけでは勝てないと思うけどねー。まぁ負けないだけでいいなら、できるだけ戦わないという方針で臨むのはアリだと思うけど。」

愛原「弱者の戦術は基本的にはゲリラ戦だ。いつでも撤退に成功するような戦法をベースにおいて、こちらのペースで戦えるような戦いだけを挑み続ける。そして戦況がどれだけ有利でも、深入りせず撤退する。深入りしたあげく逃げ道をふさがれたり、相手の主力とガチンコでやり合うような展開に持ち込んではいけない。戦わないというのではなく、壊滅しないようにヒット・アンド・アウェイで戦い続ける。」

逆沢「ブサメンだから女の子にアタックしないのではなく、ブサメンならブサメンなりに、相手を厳選して選り好みせず、手数と内容で当たれって事か?」

愛原「なんちゅう無茶なたとえだ・・・・。まぁでも言いたい意図としては近いかも知れない。まぁ無茶なたとえ話は置いといて、撤退戦術というのは、決して負けた時専用の消極的戦術ではない。厳密には最終的な勝ちにつなげる長期的視野の温存戦術そのものだ。たとえば大量の犠牲を出して局地戦で一回勝ったとしても、それでは後が続かないだろう?」

鼎「大事なのは、勝敗ではなくむしろ継戦能力って事かな?」

愛原「そう。まさに継戦能力。少しでも長く生き延びる能力。あるいは力を蓄える能力。戦闘を継続できる能力。戦いを挑み続けられる能力。それがある限り、人は常に希望を持てる。諦めずに済む。自分の可能性をいつまでも信じられる。まぁどうしても【最後まで全力で戦って負けたなら、それでも悔いは無い】と考えるなら、それはそれで否定はしないけど。」

逆沢「実際は全力で戦って負けても、被害が大きければ悔いは残るだろうけどね。借金しまくって本当の一文無しになるまでバクチに挑み続けたあげくホームレスや犯罪者になったりしたら、特に。【あの時、あんな無茶はしなければ良かった】とか【今思えば、あの時はこうしておいた方が良かった】とか。」

鼎「漫画の世界の潔い武人のように、本気で自分の命をその場で絶てる人なら悔いなく死ねるかも知れないけど、普通の人は、その時は後悔しなくとも、後になってからきっと後悔する時が来ると思うよ。無茶をしたあげく、残りの人生でどうあがいても取り戻しがつかないほどの失敗をすれば。」

愛原「しかもそういう場合は、全力で知力体力を総動員して取り組んだ結果失敗したというよりは、単なるヤケクソや意地やメンツで突っ走ったら、引き下がれなくなって破綻したというパターンがほとんどだからなぁ。特攻兵繰り出したり、戦艦大和を護衛機なしで出港させてまで無茶な戦争を継続しようとした旧日本軍も、全力というよりはヤケクソの方が近い気がする。」

鼎「議論などでも、明らかに間違ってる側なのに、最後までそれを認めない人もいるよね。」

愛原「くだらん意地やメンツが災いして、素直に誤りを認めるという撤退戦術を取れない人も多いよな。素直に人の助言を聞いておけば良かったのに、引き際を知らないばかりに損害を拡大させたりとか。素直に病院行けばいいのに、くだらん意地を張って、余命数ヶ月完治不能状態になる人もたまにいるから、たまにすごく残念になる事もある。撤退戦術を成功させるのに最も重要なのは、恥を受け入れる己の心なのかも知れない。」

逆沢「たとえ恥ずかしくとも、逃げるべき時は逃げる。頭を下げるときは下げる。断るべき時は断る。そういう心が必要ってか?」

愛原「英雄とか天才と言われる種族なら、己の信じた道をまっすぐ突き進む事で多くの成果を出す事ができるだろうが、我々凡人はそうじゃない。勝てると思っても勝てない事は多い。正しいと信じていても間違いだったなんて事も多い。とりあえず突き進んでみて、そこに壁があったならば、壊したり乗り越えようとするだけでなく、時には回り込む発想も必要だ。【はじめから勝負を挑まない】だけの臆病者はさすがに困るが、勝負を挑んでこれはまずいと思ったら、作戦に修正を加える余裕くらいは欲しいなとも思う。」




















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