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愛原様のたわごと(14年4月20日)





愛原「今回のテーマは【偽りの安寧(偽りの平和・偽りの理想郷)】。結構、真面目で重いテーマだぞ。」

鼎「もしかしてそのタイトル。何かの堅苦しそうな文学小説の題名?」

逆沢「あるいは渋さをウリにしてたけど、全く注目されなかったマイナーなフリゲのタイトルか何かか?」

愛原「いや。別に何かの作品のタイトルとかそういうんじゃなくて、言葉通りに解釈してもらえればいいのだが?」

鼎「うーん。安寧というのは、平穏と大体同じ意味だよね。穏やかな状態。平和な状態。安らいだ状態。いい意味で安定した状態というか。」

愛原「うん。平和な状態の中でも、さらに安定して落ち着いた、そこに所属する万民にとって割と幸福といえる状態。まぁ平和や平穏という単語で置き換えても構わないと言えば構わないんだけども、今回のテーマを語るにあたって一番しっくりくるかなと思って、こういうテーマ名にしてみた。」

鼎「安寧な状態というのは、いわゆる正義の味方が最後に目指す状態でもあるよね。醜い争いがなくなって、何かを激しく怖れるような事もなく、人々が安心して過ごせるような世界というか。理想郷といえるかも知れないよね。」

逆沢「けどこのブタは、何を企んでいるのかしらないけど、テーマ名に【偽りの】なんて枕をつけてるのよねー。」

愛原「そう。安寧は安寧でも、本来の安寧ではない。幻覚・幻想として見せられている偽りの安寧であったり、本人だけがそう思っているだけの見せかけの安寧であったり、そういう感じの。」

鼎「ファンタジー世界で、幻術使いやそういう能力を持つ魔物が最も好んで使用する幻覚世界の一つがそれだよね。本当はオドロオドロした気持ち悪い世界なのに、ユートピアみたいな世界を主人公達に見せたり。あるいは迷い込んだ冒険者達に、平和で温かい故郷に戻ってきたかと錯覚させるような幻覚をみせたり。既に亡くなっているはずの親友や恋人が何の前触れも無く突然現れるなんてパターンもメジャーだけど・・・。」

逆沢「偽りの安寧というか、【地上の楽園】ってキーワードなら、聞いた事があるわ。かつて北朝鮮が日本をはじめとする世界各国にアピールしたキャッチフレーズだったかな? でも実際には嘘っぱちの大ペテンみたいだったけど。」

愛原「まぁ、そういう【地上の楽園】みたいなものも含めて、見せかけだけ綺麗に塗り固められた【偽りの理想郷】というか【偽りの安寧】状態について、今回は取り上げたい。」

逆沢「・・・なるほど。確かに真面目で重いテーマだわ。で、そんな身の丈に合わないようなクソ真面目なテーマを、なぜ今回やろうと思ったわけ?」

愛原「今回のテーマについては、以前から機会を見計らって取り上げる予定であった。ちなみにそう思い立った直接の動機の一つをあげると、今年1月に放映された【明日、ママがいない】なる番組に対する社会的反応。俺自身は一度もそのドラマ自体は見ずじまいだったが、そのドラマに対する反響の方が全く人ごとでは無かったのでな。」

逆沢「あー、なんかスポンサーが降りたとか、国会でも議題にされたとか、ちょっと騒ぎになってた記憶だけはあるわ。」

鼎「うーんと確か、私が感じた騒動の印象としては、そのドラマは【差別や偏見に負けず強く生きようとする子供たち】を表現したい制作側が、まずその大前提となる差別シーンを第1話で流した途端、【差別や偏見を助長しかねない】という理由で抗議が出て社会問題化したんだったよね。合ってるかな?」

逆沢「もっと短くまとめれば、【差別してるシーンを出す事で、真似して差別する奴が出かねないからやめろ】って事かな? 【真似して暴力をする奴が出たら困るから、暴力シーンがある漫画は悪】と同じベクトルというか。あるいは【主人公がタバコをおいしそうに吸うシーンなんてもってのほかだ。感化されて、タバコを吸い始める奴が出たらどうすんだ!】というのも同ベクトルかな?」

鼎「感化されたり、真似したりする者が出る可能性を危惧した結果、反社会的なシーン自体が忌避される傾向は、色んな所で見られたりするよね。」

愛原「上のドラマに関しては、別方向からも非難の声が出た。たとえばドラマ内の養護施設の職員によるイジメシーンを見たリアルの養護施設の関係者が、【まるで自分達が普段からそういう悪い事をしていると言わんばかりですごく不愉快だ!】と感じたらしい。」

逆沢「あー、なるほどねー。私達外部の人間からしたら、そう誤解してしまう可能性はあるかもねー。【リアルの養護施設内でも、こんなひどい事が実際に行われているに違いない】とか。」

鼎「大河ドラマとかだと、特にそう感じさせる事は多いよ。大河ドラマでは主人公を基本的に善玉として描かざるを得ない以上、主人公と敵対した側はどうしても悪人とか無能キャラっぽくなりがちだけど、それを見た視聴者が【○○って戦国武将はこんなクズだったのか!】と思い込んじゃったり。あるいはそういう印象を視聴者に与えてしまう事を懸念して、○○という戦国武将のファンやその子孫やゆかりの自治体などが【○○に対する誤解と偏見を助長しかねない!厳重に抗議する!】という態度に出てきたり。」

逆沢「あー、【おらが村の英雄をこんなしょうもない役にするな!】ってばかりに、抗議の態度に出るような自治体もたまにあるわね。何かのCMが、それで中止に追い込まれたっけ?」

愛原「つまり差別なりイジメなり犯罪なりのシーンを出した場合、少なくとも2つの陣営から抗議が来る可能性がある。一つは【真似する奴が出かねないからやめろ】派。もう一つは【○○を悪役にするのはやめろ】派だ。」

逆沢「つまり【明日、ママはいない】の場合でいえば、【真似して児童養護施設の子供をいじめる奴がでかねず、さらに子供達を傷つける事になりかねないからやめろ】派と、【児童養護施設の職員を悪役にするのはやめろ】派が手を組んで、番組に強く抗議した形になる訳ね。ものすごく大ざっぱに言えば。」

愛原「番組の内容そのものはよく知らないが、それでも俺としては決して無視できない話題だと感じた。」

逆沢「まー、小説やシナリオを書く人にとっては、絶対に軽視できない話題ではあるわね。【悪役を出すな!】なんて言われたら、困っちゃうし。」

鼎「悪役がゴブリンなどの架空のモンスターなら、誰も抗議しない可能性も高いけど、リアルでいる人だと、どうしてもリスクは高まるよね。たとえば教職員による不正をテーマにしたら、教職員団体から【まるで教職員の大半がそのような不正をやっているような誤解を与える】という抗議が来るかも知れないし、警察不祥事をテーマにしたら警察関係者から、福祉を食い物にする人達をテーマにしたら福祉関係者から、特定業界のブラックぶりをテーマにしたら業界団体からクレームがつく可能性が出てくるわけだし。」

逆沢「じゃ、ウチの場合はアメリカから抗議が来たりして♪」

愛原「まぁそんな事はまずないだろうけど、ウチの作品は、いわゆる臭い物に一切蓋をしない作風になっているからな。差別・イジメ・この世の理不尽・・・・。そういうものを真っ向から取り上げる事にしている。故に、【真似をする奴が出たら困る】とか、【○○を悪く描くのはやめろ】とか言われても正直困る。もちろん○○に属する人全てが悪だなんては微塵も思ってないし、そういう偏見を助長させる気もさらさらないが、ブラック企業なり暴力団なりいじめっ子なり自己保身しか考えない官僚なり、そういうのがもたらす弊害に関しては、逃げずに描ききらないとダメだと考えている。日本の学校には陰湿なイジメはありませんって訳にはいかないのだ。」

鼎「でも実際には、大抵の学校は、イジメ問題が発覚しても【イジメは確認できなかった】とか発表したがる所が多そうだよね。」

逆沢「警察も、不祥事が明らかになってなお、【組織的な隠蔽はなかったと考えている】とか平気で言うし。」

鼎「実際にはひどい事が行われていても、みんな無かった事にしたがるよね。本当に偽りの安寧そのものというか。実際にはイジメや虐待が行われていても、そんなものは初めから存在しない事になっていたり、汚職や不祥事があっても、やっぱりそんなものは無いような扱いにされていたり。どうしてもその存在を認めざるを得ない段階まで追い込まれてもなお、【忙しくてつい報告を忘れていただけであり、故意では無かった】とか【世間で騒がれるほど重大な問題とは認識していない】とか【個人的な問題であり、組織的な問題とはいえない】とか【偽装ではなく、単なる認識の違い】とか色々言い訳して、とにかく問題を可能な限り矮小な扱いに収めたがるし。」

逆沢「円満に解決された結果、無かった事になってるならともかく、実際には被害者側に泣き寝入りさせる形で無かった事にされているケースが多いのが問題なのよねー。」

愛原「まさしく偽りの安寧。偽りの平和。偽りの理想郷だな。自浄能力が働いた結果、安寧が保たれているのではなく、汚い部分や都合の悪い部分を見て見ぬ振りをする事で、安寧であると思わされている状態というか。」

鼎「そんな事をしていたら、汚い部分はどんどん広がっていって、ますます安寧が脅かされるだけというか、理想郷が汚されていくだけだと思うのに・・・。」

逆沢「幻術使いによって幻を見せられているというよりは、自分の意思で自分に都合のいい幻を見てるだけにしか見えないわ。ぶっちゃけ現実逃避してるだけというか。」

愛原「【福祉施設が悪い事をするはずがないのに、福祉施設を悪玉とするようなシーンを出すなんて許せない】とか、【日本は世界有数の先進国なのに、未だに差別や偏見が色濃く残っているかのような表現をするなんて許せない】とか、【警察や自衛隊は市民の安全を守る為に命をかけて働いているのに、それらを否定的に扱うなんて許せない】とか、色んな理由で、そういうネガティブなシーンを毛嫌いする人がいる。しかし、自分としてはそういう側はとても支持できない。それを支持するという事は、現実に未だ残る不正や差別を見て見ぬ振りする事にもなりかねないからだ。」

鼎「けど臭い物を浄化するのでは無く、蓋をする事で見た目だけよくしたがる人は、すごく多そうな気がするよね。あるいは汚れの内、特に目立つ部分だけをトカゲの尻尾切りして、肝心の汚れの本体自体はそのまま温存してしまったりとか。」

逆沢「見た目だけ綺麗になったらそれでいいという考え方ね。問題を解決する正義の味方であるよりも、問題すら起きていない平穏な世界(但し見せかけだけ)の住民である事を望む人がそれだけ多いのかも知れないけど。」

愛原「事件を起きて、自分が被害者の立場であったとしても、あえて事件を解決して真の安寧を取り戻そうとするのではなく、見て見ぬ振りをする者すらいるらしい。たとえば警察は事件が起きた際に、被害者に対して【誰かに恨まれている心当たりなどはありますか?】と訪ねた際に、被害者はその心当たりがあっても、それを警察に正直に打ち明けずに、【自分は人に恨まれるような事はしていない】とか【そんな心当たりはない】と答える被害者というのは、意外と多いらしい。」

鼎「事件の数割は、怨恨がらみで起きるのに、恨まれている心当たりを隠していたら、なおさら解決から遠のくだけだと思うのに・・・。」

逆沢「そういえば餃子の王将の社長さんが銃殺された事件も、まさにそのパターンだったわねー。金品が奪われたわけでもなく、しかも銃という普通の民間人が保有し得ない武器を使用してでの殺人事件であるにも関わらず、関係者はそろって【恨まれている心当たり】を否定。そして事件は全く解決のめども経たないのか、何の音沙汰もない状態がもう何ヶ月も続いてるし。」

愛原「恨まれて当然のことをしてたのか、あるいは社内の権力闘争が原因なのか、あるいは反社会勢力との間に何らかのトラブルを抱えていたのか、本当の所は分からない。しかし少なくとも会社関係者は、これらの線を全て否定しているようだな。」

逆沢「まぁ恨まれて当然のことをしてたとしても、社内に権力闘争があったとしても、反社会勢力とのつきあいがあったとしても、どのパターンでも、公にしたら会社にとってダメージになるだろうからねー。会社が綺麗でいる為には、真相が解明せずとも、犯人が捕まらなくとも、別に構わないって事じゃないの?」

鼎「私なら、全てを洗いざらい公にした上で、事件究明に全力をあげて、一から綺麗に出直した方がいいと思うけど。もしも汚れた裏事情などがあったとしたらの話だけど。」

逆沢「あー、でも難しい気もするわ。学校のような教育機関ですら、【イジメは無かった】とか言って、クリーンさを強調するような世の中だから。」

鼎「不浄なものの存在を認めた上でその解決に全力で取り組むのではなくて、不浄なものを見て見ぬ振りして無かった事にする姿勢はすごく悲しいよ。」

逆沢「【私はイジメを見て見ぬ振りしました】と正直に申告するのではなく、【私の学校ではそもそもイジメはありませんでした】と言ってるのと同じだからねー。」

愛原「学校は、特に神聖視したがる傾向が強そうだな。かつて10年くらい前に大津市身体障害者リンチ殺人事件というのがあったんだが、この時、事件で死亡した被害少年の母親が、事件現場の小学校に花を添えようとしたら、校長に拒否されたというような話もある。花が添えられていると、学校の生徒がその事件のことを思い出して、辛気くさくなるというのが理由な感じのようだが。」

逆沢「一言で言えば、縁起が悪いって奴ね。だから献花を断ったと。」

鼎「私、バイクの運転を誤って電柱にぶつかって死亡した運転手を慰霊する為に、その電柱に花が添えられている光景とかは目にしたことがあるけど、そういうのは全然おかしくないよね。秋葉原の大量殺人事件の時も、献花台が長く置かれて、たくさんの人が慰霊と献花に訪れてたし。」

逆沢「けどそういう当たり前の鎮魂の思いを、その大津市の学校は無残に踏みにじったって事ね。悲惨な事件の現場となった事をできるだけ公にしたくないというか、偽りの平穏をもって、そういう忌々しい事件自体を無かった事にしたいという思いだけが伝わってしまうと言うか。」

鼎「悲惨な事件を忘れて欲しくないという遺族の思いに反して、学校側は【花なんか添えられていると、いつまで経っても事件の事を無かった事にできず、事情を知らない人から見た学校に対するイメージも悪くなってしまう】とでも考えたのかなぁ。」

愛原「悲惨な事件が起きた時、被害者の思いは常に2つに割れる。【早く忘れたい】と思う人と【絶対に風化させてはならない】と思う人。福知山線の脱線事故では、事件現場となったマンションをどうするかを巡って、被害者や遺族間で激しく割れた。見るだけでつらい記憶がよみがえるから、早く取り壊して欲しいと主張する人と、悲惨な記憶だからこそ決して風化させてはならないと主張する人。」

鼎「結局、どうなったの? そのマンションは?」

愛原「加害者であるJR西日本が、そのマンションを買い取った上でそのマンションを一旦取り壊し、そこに慰霊碑を建てるという折衷案を提案している。が、当のマンションの住民の意思も未だまとまっていないらしく、現状はそのまま。」

逆沢「東日本大震災の時も、被害の象徴である一本松とか、半壊した建物とか、色々と残そうとする動きもある反面、速やかに取り壊された建物とかも多いらしいわね。まぁその大半は、残したままだと倒壊の危険があるからという理由らしいけど。津波でビルの上に打ち上げられた船とか。」

鼎「私は特に象徴となるものだけは、なんとか残して欲しいと思うけど。世界遺産にも登録された広島市の原爆ドームみたいに。」

愛原「俺もそっち側の人間。もう忘れたい。無かった事にしたい。そういう気持ちはすごく分かる。しかし無かった事にしたつもりでも、実際に無かった事になるわけじゃない。死んだ人は帰ってこないし、受けた被害もその多くは回復しない。そして無かった事して喜ぶのは、加害者側であったり、賠償する側だけだ。被害者の悔しさや悲しさを理解したくもないと考える心ない第三者も、喜ぶかも知れないが。仮に原爆ドームが倒壊の危険性などの理由をもって取り壊される事になったとしたら、どういう人間がそれを歓迎するだろうか? ちょっと想像してみたら分かるはず。」

逆沢「アメリカ。日本の原爆肯定派。親米右翼・・・あたりは喜びそうかな? 表向きはやむを得ないとか、極めて遺憾といわんばかりの渋い表情をしながら、心の中ではガッツポーズという感じか。そして補強工事をしてでも何とか残そうとする陣営に対して、色んないちゃもんをつけてそれを徹底的に阻止しようとすると。」

鼎「過去の忌々しい出来事を無かった事にして喜ぶのは、結局加害者側(を支援・応援・擁護する人も含めて)ばかりなんだよね。」

愛原「忌々しい出来事を自分なりに総括して未来につなげていける人と、ただ単に無かった事にしてしまう人というのは、根本的に違う。無かった事にしたがる人は、単に現実から逃げてるだけだ。もちろんつらく思い出したくないような記憶を植え付けられた被害者側の人が無かった事にしたいと思う分には、やむを得ないとも思うが、加害者側の人間や第三者までもがそれに便乗して、無かった事にしてしまおうというのは、ちょっと賛同しがたい。そして思い出したくも無いような悲惨な記憶と運命を背負いながらも、それを正面から受けとめ前に進んでいこうとする者がいれば、そういう人こそ応援したい。」

鼎「そういえば、何かのネット記事でこういう話があったよ。亡くなった母親の形見を大事に持ってる女の人がいて、それを面白くないと思った彼氏が、その彼女がいない間に形見の品を捨てちゃったんだって。そしてその彼氏がいかにもドヤ顔で諭すような顔をして【いつまでも過去に縛られるな。これからは俺の為に前向きに生きろ】みたいな事を言ったら、彼女が狂ったように激怒したみたいな流れの話なんだけど。」

逆沢「そりゃ激怒するわ。つうか人の気持ちが分からないのか、その人間の皮を被った彼氏とやらは。」

愛原「未来志向の悪魔だな。いつまでもクヨクヨしてるだけの人間でもダメだと思うが、大切な家族の事を綺麗さっぱり忘れて生きろみたいな事までは、さすがに言ったら駄目だと思うし、まして人様の形見を勝手に捨てたら最悪だ。人は過去を忘れたり無かった事にして成長するのでは無く、過去を乗り越えて成長するものだ。素晴らしい家族や恩師や友人に恵まれた過去があるならば、それに常に感謝し、逆に悔しくてどうにもならない過去があるならば、それを糧なり反省材料にする。誰にも恩義を感じず、誰も恨まず、反省もしない人生が送れたならば、それはそれですごく平穏ではあるんたろうけども、そんな成長無き平穏に果たして価値はあるのかとも思う。まして都合の悪い記憶を無かった事にして、偽りの平穏に安住しようとしたならば、それはもう人間とは呼べないだろう。」

逆沢「ルーチンワークをこなすだけのロボットか、刹那的な欲望だけを基準に行動を決定する畜生と変わらないわね。」

鼎「政治家の人にも、やたらと未来志向を強調する人がいるけど。」

愛原「未来志向自体は、素晴らしいと思う。しかし過去を無かった事にしての未来志向はあり得ない。過去を無かった事にする人間は、きっと未来も無かった事にするだろうからな。詐欺師に騙された過去を無かった事にして、詐欺師と新たに交友を結んだならば、まず間違いなく詐欺師は再びこちらをだましに来るようなものだ。」

逆沢「[【今度こそは!】【信じて下さい!】→また裏切る]の無限ループになるだけだしねー。そういうのは。」

鼎「借りた金を返さないままにして、また性懲りも無くお金を借りに来る人は、そういう人が多そうだよね。【いつまでも過去の事をグダクダ言うな】とか言って過去を無かった事にして、未来志向だけをアピールしたあげく、結局同じ事を繰り返そうとするタイプというか。」

逆沢「そして人から受けた恩も、平気で忘れるタイプだと思うわ。未来志向の名の元に。」

愛原「都合の悪い事を無かった事にする人間に、成長はない。そして無かった事にしても、実際に無かった事になるわけではない上、対策も打たないまま放置する形になるから、気がついたら同じ事ばかりをループして繰り返す形になる。【のど元過ぎれば熱さ忘れる】ということわざがあるが、熱さをすぐに忘れてしまう人間は、再び熱さで苦しむ時がいつ来てもおかしくない。東日本大震災なり原発事故なりの教訓を生かさないままなら、また同じような悲惨な結末になるだろうし、これはまずいと思って、新しい事に挑戦しながら、すぐに諦めて元に戻ろうとする人間は、そのまずい状態からも永久に抜け出せないだろう。」

逆沢「ただ問題点を公にして、対策を打とうとすれば、それに反発する人とか、便乗する人とか、悪用する人も必ず出るのよねー。目新しい犯罪が公にされる度に模倣犯が出たりとか。」

鼎「生活保護制度に関する問題点が明らかにされる度に、【こんな手口があったのか?】とばかりに便乗する人も出るそうだよね。吉本興業の芸人さんによる生活保護問題で騒ぎになった後、目に見えて新たに生活保護申請者が増えたという話も聞かない事はないし。」

逆沢「ある地域で落書きが問題になっているとか、暴走族が急増しているとか、浮浪者も多く麻薬の密売なども行われているといった報道が流れると、逆に落書き行為や暴走行為や麻薬を買いたい人がその地域に集まる現象もあるらしいしねー。」

愛原「【割れ窓理論】現象が起きているんだろうな。ゴミを放置して置いたままにしておくと、みんながその地域にゴミを不法投棄するようになるような感じというか。状況がヤバい事実が明らかにされているにも関わらず、その対策が放置されていると、ヤバい環境を好む人達や、ヤバイ環境を利用したい人がたくさん群がってきて、ますます状況のヤバさがアップするような感じだろう。」

逆沢「なる程。せっかくヤバい状況が判明し、それを隠蔽しない潔癖さを持っていても、肝心の対策が後手後手に回っていると、むしろ状況が悪化しかねないという事ね。」

愛原「振り込め詐欺の手口を公開する事で、善良な市民が【こんな手口があったのか? そういう手口にも注意しないと!】と警戒しやすくなる反面、詐欺師予備軍にも【こんな手口があったのか? よし俺もこの手でやってみよう】といらぬ知恵をつけてしまう可能性がある。広く周知する事で、圧倒的多数を占める市民に有益な知識を与える事もできるメリットも大きいが、少数の悪人達にもいらぬ悪知恵をつけてしまう側面はいかんともしがたい。」

鼎「イジメや差別のシーンを放映するのも、そう考えると善し悪しだよね。いじめっ子のひどい手口を周知する事による社会全体のメリットも大きいけど、いじめっ子はいじめっ子で、【そうか。こういうイジメの手口もあるんだな!】といらん知恵をつけてしまう事もあるだろうし。

逆沢「とか言って、悪い奴がいらん悪知恵をつける事を警戒して、周知活動をしなかったら、もっと状況は悪化すると思うわ。社会全体が周知活動を怠った場合でも、悪人は悪人でさらなる研究や勢力拡大活動は続けるだろうし、そうなると何の情報も知らされない一般の市民との知識の差はおそらく開く一方になるだけだろうから。」

愛原「情報を知ったにも関わらず、対策を打たずにひどい目にあっても、それは対策を打たなかった奴が悪い。しかし情報自体を知る機会が無ければ、対策の打ちようもない。都合の悪い事を隠蔽するのでは無く、公開して少しでもその情報を生かしてもらうよう働きかける方が、俺は絶対に有益だと思う。」

鼎「情報の流し方にもよると思うよ。たとえば格闘漫画や不良漫画などが一部団体に激しく嫌われたのは、暴力による紛争解決を正当化する内容になっていたり、不良という反社会的存在を主人公として扱って美化するような内容になってたからだと思うし。」

逆沢「良くも悪くも、影響を受ける人はいるからねー。まぁ反社会的存在を美化したら、そりゃあクレームがついてもしゃあないと思うわ。」

愛原「まぁ、その主張には反論できんな。ただ【不良や暴力を美化するなんて許せない!】と騒ぐ人と、【福祉団体や自衛隊員を悪く表現するなんて許せない!】という人は、中身において全く同類なんだぞ。自分の気に入った奴はとことん美化して、自分の気に入らない奴はとことんおとしめたいというだけ。」

逆沢「まぁ好き嫌いは誰でもあるからねー。【坂本竜馬をコケにしたCMは許せない!】とか【俺の大好きな黒田官兵衛はもっとダーティーで知的なキャラのはずだ!断じてこんな熱血バカじゃない!】とか【安重根は単なるテロリストであり、それを英雄視するなんてあり得ない。断固として抗議する!(韓国では逆バージョンになる)】とか、【尖閣諸島は俺たちのものだ!(日中で逆バージョンになる)】とか、一方的な視点だけをもって、相手の価値観を全否定して、自分にとって都合のいい価値観だけをおしつける人はどこにでもいるからねー。」

愛原「自分にとって都合のいい幻想の理想世界を持っていて、その理想世界を木っ端微塵に吹き飛ばすような主張や作品は許せないという論理だな。その論理が先鋭化した時、自分達にとって都合の悪い報道や書物などを規制し、焚書などが行われるのだろう。」

鼎「焚書というと、中国の始皇帝が行った焚書坑儒が有名だけど、実際には世界各国で行われていて、戦後の日本でも手塚治虫さんの鉄腕アトムなども有害図書として一部から名指しされた事があったそうだよね。」

愛原「明治の頃は、頭の固い高齢インテリ層などから若者に人気の夏目漱石の小説が悪書扱いされた事もあったそうだ。今では純文学扱いだが、当時の夏目漱石小説は若者人気で、今で言うラノベのような扱いだったからな。」

逆沢「いつの世でも若者の新しい軽々しい文化に否定的な層はいるものねー。紀元前の時代から【今時の若いもんは・・・】的な不満を口にする層はいたそうだから、もうこれは遺伝子に組み込まれた本能の一つなのかも知れないけど♪」

鼎「でも当時の若者は若者で、廃仏毀釈ブームにかぶれて、歴史遺産価値のある寺社に平気で危害を加えたりもしてた人もいたようだし、年齢問わず、自分の気に入らない存在を攻撃せずにはいられない人は常にいた感じもするよね。」

愛原「平成の若者の中にも、頭の固い高齢インテリ層によるオタク文化排除の流れに激しく抗議しながら、韓流デモには参加するみたいな輩もいるからなぁ。いつの時代にも、そういう輩はいる。」

逆沢「今年度特有の有害図書排除運動関連だけでいっても、【はだしのゲン】を有害図書扱いにしたがる層とか、【アンネの日記】の存在自体を消したい層とかもいるようだし、本当に先進国の住民と名乗るには恥ずかしすぎるわ。」

愛原「書物を初めとする各種メディアの良いところの一つに、古い価値観を木っ端微塵に吹き飛ばせる破壊力があるとすら、俺は思っているからな。頭の固い人に対して、【こんな解釈も出来るんですよ】とか【今まで信じていた事が正しかったとは限らないんですよ】とか【実はこんな隠れスポットがもあるんですよ】とか【この道具には実はこんな使い道もあるんですよ】とか【こういう新技術ができたんですよ】とか、そういう新事実・新解釈をつきつける。もちろん新解釈や新事実を告げられる事で、都合の悪い人も出るだろうけど、そんなものに負けてはいけないと俺は思っている。幻想の理想郷を吹き飛ばした向こうにこそ、更なる進歩があるとすら、俺は思っているからな。」

鼎「理想郷というのは、ある意味完成された世界だよね。だからこそ、その自分にとって都合のいい完成された理想郷を、新解釈や新技術といった新兵器で破壊されたくないという人は多いと思うけど・・・。」

愛原「で、進歩する事を忘れた理想郷で安寧の時を過ごしている内に、ある日突然外から黒船がやってきて、無理矢理外圧で理想郷自体を吹き飛ばされるのだな。」

逆沢「それでも理想郷に留まりたい人達は、妄想の殻に閉じこもって、かたくなに偽りの理想郷を守り続けようとするわけね。自分に都合の悪い存在は、無かった事にして、見なかった事にして。あるいはただ盲目的に相手の存在を否定し、排除する事で停滞する理想郷を守り続けようとすると。」

鼎「私は停滞する理想郷よりも、困難が途中で立ちはだかっても、進歩し続ける世の中の方が絶対に良いと思うけど。技術や文化が進歩し続けたからこそ、より平等な世の中もより快適な世の中も実現した訳だし。」

愛原「残念ながらそう考えない人も、常にいる。上手くいくかどうかも分からない不透明な未来に賭けるよりも、現状をかたくなに守りたい人というのは。もちろんその結果、その人が信じる理想郷が守られるのなら、まだ救いはある。だが実際には、現状の安寧を上回る存在や脅かす存在は必ず出るし、その際にかたくなにその存在自体を見なかった事にしてしまう人も少なからずいる。」

鼎「現状の安寧を上回る存在といえば、より進んだ科学技術などがそれにあたるよね。あるいは米経済に換わる貨幣経済とか。封建主義に替わる民主主義とか。」

逆沢「しかし現状の理想郷に安住したい人にとっては、そういうのもすごく都合が悪いと。制度が変われば、当然、最も恩恵を受ける層も変わるし、技術が進歩すれば、新たな技術を一から覚えなくてはならなくなる事で高齢層の負担は重くなるだろうし、前の技術で生計を立てていた職人さんなども困るだろうから。」

愛原「理想郷を脅かす異分子の正体が、更なる技術革新や社会の成長をもたらす素晴らしい存在なのか、速やかに手を打つべき単なる悪党・汚染物質でしかないのか、それは分からない。だが異分子と言うだけでとりあえず排除する以外の選択肢を持たないというのはおかしいし、異分子を見て見ぬ振りするのはもっとおかしい。」

鼎「人は理想郷を見つけてしまった時、最も駄目になっちゃうのかも知れないよね。理想郷の形を変えたくないから、変える事を否定して成長を止めてしまう事にもなってしまうし、実は理想郷の正体が最初からハリボテであった事も認めたくないから、その中に都合の悪いものがあっても、見て見ぬふりをしてしまったり。」

逆沢「完璧な存在であるはずの理想郷が、実は欠陥だらけだった事なんて認めたくないから、都合の悪い部分は見なかったことにする。そして既に完璧であるはずの理想郷の形を変えようとする存在は、理想郷を脅かす危険因子として敵対心をむき出しにして排除すべきと考えるわけね。」

愛原「そしてその見せかけだけの偽りの理想郷を破壊できる可能性をもっているのが、書物を初めとした各種メディアだ。テレビ・新聞・映画・小説・漫画・ゲームなど。俺としては、これらを焚書などの形で排除する側ではなく、もっと自由に公開できる方向こそ支持したい。」

逆沢「ただ紀元前の昔から、自分にとって都合の悪いメディアを排除したい人はいるし、今でも都合の悪い本を切り裂き、ドラマにケチを入れ、ゲームを発売禁止に追い込む人はいるけどね。」

愛原「もちろん悪事を推奨しているとしか思えないような、タチの悪いメディアも多く存在するのは認める。しかしそれをタチが悪いと判断するのは、個人の問題だ。鉄腕アトムやはだしのゲンやアンネの日記を読んでどう感じるかは個人の勝手だが、読む機会自体を奪うのは、全く適正でないと俺は考える。大体、読む機会自体が奪われてしまえば、誰もその作品を検証する事ができなくなってしまうではないか? それで喜ぶのは、自分に都合の悪い作品の存在自体を無かった事にする事で、小さな偽りの理想郷を守ろうとする者だけだ。」

鼎「誰だって認めたくない事や、忘れたいほどつらい事などもいっぱいあるけど、現実を無かった事にして、偽りの安寧の殻に閉じこもるのでは無く、正面からそれを乗り越えられるようになれたらいいよね。」





















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