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愛原様のたわごと(14年11月30日)




愛原「・・・不安だ。」

逆沢「何が不安って? お前の未来か?」

愛原「まぁ、ある意味では正解だな。前回の続きにはなるが、前回の予想がかなり悪い方向で的中してしまったからな。色んな解散のバージョンを紹介したが、総理はその内、最も国民に不幸なバージョンを選択したみたいだ。」

鼎「このパターンだと、先に選挙を済ませた後に、国民から不評な政策をぶつけてきそうな気配が濃厚だよね。選挙公約ではその点については一切触れられてないけど。」

逆沢「安倍は前回の選挙後にも、公約のこの字もない秘密保護法案をいきなりぶち上げてごり押して来たから、こうなったら何を仕掛けてきてもおかしくないわ。」

鼎「世論調査で不評気味の集団的自衛権解釈変更を裏付ける自衛隊法の改正あたりまで仕掛けてきたりして。他には秘密保護法案のチェック機能の骨抜き化とか。」

逆沢「公明党が軽減税率がどうこう言ってるけど、8%増税の時にも思いっきり踏み倒してるし、また思いっきり踏み倒すか、商品券あたりで骨抜きにされる気がしてならんわ。」

鼎「そもそも消費税で民意を問う意味がよく分からないし、そういう前例を作るのなら、1年後にもう一回民意を問わなくてはならないのに、今度は景気の動向に関わらず民意も問わずに強行とか、内容が矛盾しまくってるよ。」

逆沢「安倍が確か、民主党は民意を問わずに消費税増税をするタブーを犯したから政権を失ったとか言ってて、それを理由に選挙という事らしいけど。」

愛原「だったら消費税3%や消費税5%を強行した過去の自民党こそ大問題になってしまうぞ。逆に民主党は参院選直前に当時の菅直人首相が消費税の話を持ち出して、その直後に60%を越えていた支持率が急落して参院選で惨敗したくらいだから、思いっきり民意を問うて大ダメージ被っているくらいなのだが。むしろ問題なのは、民意が参院選で消費税にノーを突きつけたのに、菅が民意を受けて封印した増税論議を掘り起こして謎のごり押しした野田佳彦と、解散とエサに釣られて増税に同意した自公の3者の方だろ。」

鼎「消費税増税ってそこまでしてやらないといけないものなのかな?」

愛原「上手く運用すれば、借金漬け財政を改善する一手として非常に有効なのは間違いない。但し、過去の例を振り返ってみる限り、消費税増税と法人税減税は必ずセットになっており、実は税収には極端な影響は出ていないのが現状ではある。福祉目的とか色々言われているが、実際は法人減税の穴埋めを消費増税で補っているのが現状だ。」

逆沢「それって、要するに大企業の税負担を軽くして、各家庭や中小企業の税負担が重くなってるだけじゃねえのか?」

愛原「ぶっちゃければその通りだな。法人減税の恩恵を強く受けるのは、いわゆる大企業くらいだし、その恩恵に比べれば消費増税など全くかゆくもない(だから財界は、一日も早く消費税を上げろと騒いでいる)。そして法人減税分の穴埋めを担うのは、第一に国内の消費者だ。また小売り業も、消費増税による売り上げ減の影響を受けやすい点では少しはマイナスに働くかも知れない。また中小企業も、親会社などに増税分の値上げを要請しにくい立場上、相対的にあおりを食らいやすい。」

鼎「某経済系の新聞で、以前、こういう記事を読んだ事があるよ。【大企業は下請け企業への値下げ要請などの努力を重ねて従業員の給料アップの為に頑張っているのに、下請けは何の努力もしていないから従業員の給料も上げられず、アベノミクスの足を引っ張っている】みたいな内容なんだけど。」

逆沢「弱者に負担を押しつけるのが努力とは恐れ入ったわ。そういやアベノミクスで某コンビニ会社の本社正社員の給料アップという記事があったんだけど、その一方でコンビニの大半を支えるバイトの扱いは最低賃金スレスレのままとか、悪い冗談みたいな記事も読んだ事があるわ。」

愛原「国民全体のGDPなどが伸びてないのに、誰かの給料が上がってるとすれば、別の誰かが泣いているに決まっている。パイの大きさは変わってないのに、誰かのパイを増やしたら、どうなるかくらい子供でも分かる話だ。パイが増えて喜んでいる人ばかりを取り上げて、景気対策は大成功とか、冗談にしてはタチが悪すぎる。民主党政権時よりはマシという意見もあるけど、その論理でいえば、麻生政権の時よりは鳩山政権の時の方がかなりマシだったんだぜ。それこそ堂々巡りの議論になっちまう。」

鼎「景気というのは、厳密には世界経済の影響をまともに受けるから、一人の政治家の手でどうにかならない事の方が多いよね。リーマンショックとか東日本大震災とか、そんなの世界中のどの政治家でも制御できるものではないし。」

愛原「マクロ経済的視点で言えば、麻生政権の時に直撃したリーマンショックを2年かけて改善、東日本大震災で再び大きく沈み込み2年かけて改善というだけの話だからな。政権が交代してからといって、震災復興の内容の何かが変わったわけでもないし、たまたまそういうタイミングの時に鳩山や安倍が政権を取ったから、たまたまそういうタイミングの時に麻生や菅が総理の椅子に座っていたからというだけの話に過ぎん。黒田バズーカーがどうこういう奴もいるが、その効果も1ヶ月もまずもたん。後にはばらまかれた札束だけが回収されずに残って、国民一人一人が持つ資産が目減りしただけ。というか仮に黒田バズーカとやらが本当に景気対策に有効なら、出し惜しみせずに何発何十発でも打ちまくればいいという話になってしまう。それをやらないのは、札束をばらまく事による副作用の方が大きい事を彼ら自身が熟知しているからだ。」

逆沢「そんな事をしたら、戦前日本の経済恐慌や、ジンバブエドルの二の舞になっちまうわ。」

愛原「脱デフレ自体は大変結構だが、橋是清も禁じ手としてきた札束のばらまきを、まさかここまで大胆にやるとは思ってなかったので正直びっくりしている。単純に札束を増やしても、世界基準単位(米ドルでもユーロでも構わない)でいえば、何も変わる訳がないからな。1枚の日本円のお札で交換できる外貨の価値が下がってるだけにしかなってないから。円安といっても、日本経済の強弱も問題では無く、札束が増えた事によって日本円の価値が下落しただけにしかなってないのが困る。日本の景気が良くなった結果の脱デフレ(インフレ)ではなく、日本の札束が紙屑近づいた結果の脱デフレ(スタグフレ)だから、食品などの原材料費や飼料などが高騰する一方で、外国の資本家に東京の不動産資本とかも色々買われるようになったりして、明らかにデメリットが現状勝ってしまっている。」

鼎「でもこれからさらにアベノミクスを加速させるとか、総理は自信満々のようだよ。」

愛原「黒田バズーカの話と同じで、そんな簡単に加速できるのなら、なんで最初からそれをやらない?という話になってしまう。というかそれをやってから解散した方がどう見ても得策だろ? 普通に考えておかしいだろ? 大体、アベノミクスという単語だけが踊って、追加経済対策の具体案の中身についても全く触れられていないし。過去2年に行われてきたアベノミクスの中身について、札束バラマキ以外に細かく解説できる者が果たしてどれだけいる? 郵政民営化で日本が良くなる(なった)並に中身が抽象的すぎて全然よく分からないのが本当の所だろ? 大体、景気というのは世界経済や自然災害などの要因次第で大きく変わるから、結果論だけをみて経済政策を語るのも無理があるし(それを言ったら、麻生あたりは戦後政治屈指の経済オンチであり、安倍はその経済オンチに財務大臣を任せたという話になってしまう)。というか政治家の経済政策が成功したか否かだけで、経済の成否が決まるはずもないけどな。」

逆沢「ま、政治家のさじ加減だけで世界経済がどうにかできるなら、世界経済は常に良好なままだろうしねー。アメリカも中国も日本も、みんな景気がいい方が都合がいいに決まっているし。」

愛原「政治家が世界経済に介入できる部分は、正直限られている。外交交渉で自国に有利なように関税を操作したりとか。戦争などの大規模経済行動を起こすとか。もっともそれらはマイナスに大きく振れる可能性もかなり高く、事実上のバクチになるけど。国内経済に限れば、歳出歳入をいじる事で、景気は大きく変わる。一般企業が儲かる事業に資金を投入すれば儲かり、そうでなければいずれ倒産するように、国家経済も、有効な事業に税金を投入できればプラスに振れるだろうし、無駄使いを続ければ借金だけがふくれあがっていずれ破綻する。有効な事業が思いつかなければ、歳出を抑えて守りに入るのもやむを得ないし、逆に攻め時もあるだろう。それだけの話だ。」

鼎「そういえば今は空前の低金利が続いてる上に、黒田バズーカーで銀行にお金が余って借り時なのに、それでもなかなか借り手が増えないままだそうだよね。」

愛原「使い道もないのに、お金を借りるアホはいないだろ? お前らだって、絶対欲しいものも無いし、資産を増やして返せるアテもないのに、わざわざ消費者金融でお金借りたりするか? 余程欲しいものがあるか、儲かりそうな事業があれば別だが、そうでもないのにお金を借りたがる奴なんか普通おらん。まして現在、日本の大企業の多くは内部留保だけはしっかり貯め込んでいるからな。ソニーとかパナソニックとか、不調といわれる企業も多いが、それでも保っているのは、内部留保が多いからだ。」

逆沢「内部留保。要するに貯金のようなものね。まぁ貯金が底をついたら、借金してでも食いつなぐしかなくなるんだろうけど。」

愛原「儲けるために借金するのと、食いつなぐために借金するのは意味が全然違う。食いつなぐだけが目的の借金なんか、まず返せないし、返されなければ貸した側の金融機関も巻き込んで悲惨な結末にしかならない。」

鼎「とすると福祉目的の赤字国債発行なんて、無謀以外の何者でもないと言うことかな?」

愛原「つうか儲けるための建設国債と異なり、赤字国債は本来法律で禁止されているんだけどな。理由は上で説明した通り、無謀だから。」

逆沢「うーん。それにしてももう少し明るくなるようなネタでもないのか?」

愛原「ただ経済の話を真面目にすると、どうしてもシビアにならざるを得ないからなぁ。というかオバマも安倍も習近平も、みんな自国の経済発展を願っている。世界中の天才秀才達が政治家あるいは官僚あるいは学者として、その為に努力してなお、なかなか上手くいかないのが経済だからなぁ。シロートが景気のいい話をしても、怪しい宗教の話以下にしかならんのはやむを得ない話だとは思うぞ。」

逆沢「まぁ、あんたが景気回復の特効薬を用意できるくらいの存在なら、今時、もっともっと大物になっていただろうしね。」

愛原「そういう事。できるだけ偏見を交えず、真面目に話しているからこそ、こういう流れになるのはやむを得ない。今後、景気が良くなるかどうかは、世界の動向や自然(気象や災害等)の要素も多く、正直分からない。ただ安倍自身は、今後推進したい政策などを振り返った結果、今後支持率などが好転する見込みが薄いと判断したからこそ、野党も弱い今のうちに逃げの選挙に出たのだろう。明るい未来が今後2年以内に予想できるなら、今の段階で解散するなどあり得ないし。」

逆沢「おいおい。これ以上、人を不安にするような話に持っていくな。」

愛原「悪い悪い。けれどこれも本題のための伏線だったんだ。そろそろ今回のテーマに移ろう。今回のテーマは【安心と不安の役割】だ。」

鼎「安心と不安?」

逆沢「【〜の役割】という部分が、なんか引っかかってしょうがないんだけど。」

愛原「たとえばお前らがゲームをしていて、どんな時に安心し、どんな時に不安になる?」

逆沢「一番安心できるのは、難敵を攻略して一息つけた時ね。あるいは俺TUEEEモードに突入した時とか。セーブポイントがいたる所にあるゲームも、無茶をしやすくなる点で言えば安心ね。」

鼎「逆に、強敵に挑む時とか、容易に引き返せないダンジョンに挑む時とかは、不安になるよね。想定外の事態が起きて、魔法が使えなくなったり、アイテムを切らしてしまったり、大事な仲間がいなくなったりすると、今後の展開を考えるだけですごく鬱になっちゃう事もあるよ。」

愛原「だからといって不安感や緊張感のまるでないゲームをやりたいと思うか?」

逆沢「うーん。私ならパスかな? やっぱり挑む感覚というか、達成感がある方が楽しいし。ちゅうか不安安心って、セットじゃね? 不安要素があるからこそ、それを退けられた時に安心できる喜びも大きくなるというか。」

鼎「安心と不安って、もしかしてコインの裏表のような関係なのかな?」

逆沢「まぁ何かを比較した結果、不安になったり、安心するってのはあるかもね。比較対象が全くないと、自分の立ち位置も分からないけど、周りの人間をみて、安心できたり、逆に不安になる事も多いと思うし。」

鼎「自分のテストの点数が70点というだけでは、安心していいのか不安になるレベルなのか分からないけど、周りと比べる事でそれが判別できる事も多いよね。」

逆沢「勉強でも運動でも年収でもルックスでも、なんでもいいけど、誰かと比べる事で、色々安心できたり、逆に不安になるって事は多いかもね。」

愛原「安心や不安という概念が、どれだけ相対的なあいまいなものなのかが分かる感じだろ?」

逆沢「ま、周りのレベルがあまりに低すぎると、色々勘違いして安心しちゃうなんて事はあるかもね。」

鼎「平凡な公立中学で優等生気取りでいて、意気揚々と進学校に乗り込んだのは良いものの、そこでは自分よりはるかに優れた者ばかりがいて、急に絶望感に襲われるような事もあるよね。絶対評価的視点で言えば、その人の価値が特に変わった訳ではないんだけど。」

逆沢「比べる相手を入れ替えるだけで、自分の実力は全然変わってないのに、安心できたり不安になったりって、冷静に考えたらおかしいけど、感情としてはすごく理解できるわ。」

愛原「でも適度な不安があるからこそ頑張れるような気はしないか? 強敵がいると分かっているからこそ、退屈なレベル上げにも集中できるみたいな感じで。」

鼎「頑張れる性格の人にストイックなタイプが多いのも、それが理由なのかな? どれだけ強くなっても、【自分はまだまだ】とか【俺より強い奴に会いに行く】と思い込めるからこそ、たゆまぬ努力を続けて、ますます強くなれるというか・・・。」

逆沢「逆に頑張れない性格の人は、その逆が多そうね。自分がどれだけダメ人間でも、自分よりさらにダメな人間を見つけては【あいつよりはマシ】と思い込んで安心しちゃうから、結局ダメ人間から全然成長できないというか。」

鼎「こうして比較してみると、不安があるからこそ人は成長できるという見方もできそうだよね。」

逆沢「でも安心したい生き物なんだけどね。人間は。」

愛原「安心したいという気持ち自体は、すごく大事な価値観だろうけどな。ストイックな努力家が頑張れるのも、結局の所は不安から逃れたい(もしくは【より安心したい】)からこそだろ? 【現状には不安がある→より安心したい→じゃあどうするか?→頑張ろう】のコンボが働くというか。」

逆沢「ダメ人間の場合は【既に安心である→頑張る必要もない】でダメコンボのまま終わってしまうから、まずいって事か?」

愛原「実際問題、人間は不安があるからこそ、それを安心に変えるために色々努力できる。強敵に勝てないと思えば、知恵も絞るし、地道に鍛えたりもするし、お金も必要なら稼ぐ為の苦労も惜しまないだろうし、人脈が必要ならその形成に熱心にもなれる。誰だって、不安な状態は嫌なのだ。だからこそ人は頭も使うし、努力もできる。」

鼎「そういえば、認知症になりやすいのは、これといった大きな不安も抱えてなくて、ルーチンワーク的な日常を送っている人が一番という話も聞いた事があるよ。」

逆沢「まぁ将来の不安とかで色々深刻に悩みながらボケてる人というのは、あまり聞いた事が無いわね。言われてみれば。」

愛原「過度の不安は、鬱やストレスによる各種障害の元になるから絶対に避けたいところだが、何の不安も生き甲斐もない状態も、それはそれで問題なのかも知れんな。不安でも生き甲斐でもなんでも良いから、何らかの攻略目標を持っている人は、頭を使ったり、体を動かす必要に迫られている分だけでも、脳が老化しにくいという事かも知れん。」

逆沢「ゲームプレイしてても、不安になるような状況は、自然と頭もフル回転せざるを得なくなるというか、とにかく集中力も上がってるし、色々脳が鍛えられている気がしなくもないわ。」

鼎「逆に俺TUEEEプレイ状態だと、すごく雑になっちゃうよね。それなりには快適ではあるけど。あと、飽きやすいのが欠点かな?」

愛原「人は誰だって不安な状態を好まない。しかし人間の感情に不安というものが存在する以上、やはり意味があったという事かも知れんな。」

鼎「痛覚のようなものかな? 誰だって痛い思いはしたくないけど、でも人間が痛覚を感じなくなったら、それは生命を維持する上ですごくまずいようなもので。」

愛原「不安という感情も、人間が生命を維持する上で必要だからこそ備わっているのだろうな。」

逆沢「でも乗り越えられるレベルの不安ならいいけど、そうじゃない不安というのは害にしかならないような気もするけど。」

愛原「そんな事はない。たとえば不景気に対する不安というのは、世界中の天才達が集まっても容易に払拭し得ない程の難題だが、でもそういう不安を持つ事によって、人々は自己防衛策に走る事ができるだろ? たとえば将来の金策に不安があるならば、誰だって倹約したりするはずだ。不安の根源である不景気自体はどんな天才でも解消できないかも知れないが、不景気を不安に感じる事で、自分なりに状況をマシにする事自体は十分可能だからな。」

逆沢「ま、普通の人なら、誰だってそうするわね。収入が減りそうとか将来の不安を感じたりすれば、新たな働き口を探したり、倹約したり、収支を見直したり、資産の運用を考えたり、色々な方法を模索するのが普通だわ。」

愛原「そういう事。将来に不安を感じる事によって、人はますます自己防衛できるようになる。逆を言えば、仮に不安を感じる能力が全く無ければ、人は有り金をその場で使い切ってしまうような生き方しかできないだろう。」

鼎「というか、不安があるからこそ、受験勉強を頑張ったり、仕事を頑張ったり、自分を磨いたりできるよね。逆に自分に不安を感じなければ、つらい勉強をする必要も無いし、仕事をする必要も無いし、ダイエットをしたりして自分を磨く必要も無くなるだろうし。」

逆沢「ただ頑張って状況を改善しようと思えるレベルの不安ならいいけど、絶望しか感じないレベルの不安だったら、話はやっぱり違ってくるんじゃないの?」

鼎「不安が絶望レベルになると、鬱になったり、発狂したり、ヤケクソになったり、妄想の世界に逃げ込んだり、かなりまずい状況にしかならない気もするよ。適度の不安は頑張ろうという気持ちにさせてくれるけど、過度の不安は人を狂わせる元凶にしかならないというか。」

愛原「まぁ、それはその通りだな。人間、安心しすぎるのも良くないが、不安に捕らわれすぎるのも良くないとは思う。だが上で述べた通り、不安は所詮、相対評価なのだ。一つ面白い実例を紹介しよう。」

逆沢「どんな例?」

愛原「ある都心にある一流企業に勤めるエリートサラリーマンが、仕事で重大なミスを犯して、とある地方(北海道でも九州でも構わない)の零細企業に無理矢理出向させられた。そして年収も大きく激減し、家族もバラバラになり、本人は激しく絶望した。こういう例はたまに聞かなくもないだろう?」

逆沢「ああ、不景気になると特にそういうケースは増えそうね。」

鼎「それでもいきなりクビを宣告させるよりは、私はすごく恵まれていると思うけど・・・。ちゃんと再就職先も用意してもらえているのだし、世の中には一から就職活動しなければならない人の方が多いだろうから。もちろんその新たな就職先がどうしても嫌なら、辞めるという選択肢もあるし。」

愛原「そう。冷静に考えれば、とても絶望に陥る状況ではない。大体、初めからずっと零細企業に勤めているままの人なんていくらでもいるし、低年収でも普通に生活できている人もたくさんいる。にも関わらず、その人は激しく絶望した。これはなぜだろう?」

逆沢「環境の変化に順応できないと思ったんじゃないの? 年収1000万円の生活が普通と思ってた人が、急に年収300万円になったりしたら、とても今までの生活水準は維持できないし。昔からずっと年収300万円で生活してきた人とか、昔から単身赴任が当たり前の人とか、昔から地方で生まれ育ってきた人なら、そんな事でいちいち動揺するはずもないだろうけど。」

鼎「つまり今までの自分の環境より悪化する事でも、人は激しく不安になったり、絶望したりもするという事かな? 冷静に考えれば、地方だろうが低年収だろうが、それでも普通に生活できている人はたくさんいるにも関わらず。」

愛原「以前、こういう雑談も聞いた事もある。【もしお前が、あいつの立場ならどうするか?】という議題なんだが? で、参加者達は口々に【俺なら登校拒否になるわ(職場が舞台ならそんな会社辞めるわとか)】とか【鬱になるわ】とか【絶望するわ】と口々に言う訳だが。」

逆沢「【たとえば君が、学校一の落ちこぼれ(極端にいえば成績はダントツビリで運動もさっぱりで容姿も醜いピザ体型等)と入れ替わったらどうするか?】みたいな話ね。まぁ私がそんなのと肉体や立場が入れ替わったら、本当に発狂してしまうと思うわ。」

愛原「でもじゃあ、その落ちこぼれ君が普段から発狂したり絶望してるかといえば、決してそんな事はないだろう?」

逆沢「言われてみれば、中学でも高校でも落ちこぼれの一人や二人はいるけど、だからといってその人が発狂したり絶望してる気配はないわね。むしろ普通に周囲に溶け込んでいるというか。まぁ単にそんな自分を見てみない振りして、自分も他のクラスメイトと同格と思い込んで、現実逃避してるだけかも知れないけど。」

鼎「逆に急に成績不振に陥った同級生とか、急にイジメに遭うようになった同級生の方が、余程激しく落ち込んでいる事も多いよね。元から悪い状態の人より、何かの原因で急に状況が悪化した人の方がずっと落ち込みやすいというか。」

逆沢「なるほど。不安というのは、急激な環境の変化に伴って起こりやすいのかも知れないという事ね。元から田舎暮らしの人と、急に田舎暮らしするようになった人とでは、適応しやすさも全然違うようなものというか。」

愛原「急激な環境の変化が不安をもたらすとすれば、逆を言えば、変わらない日常というのは案外究極の安心なのかも知れんな。」

逆沢「けどそれはそれで退屈なんだけどね。人は退屈すると、ついハラハラドキドキの冒険もしちゃいたくなるというか。お金を出しても、ジェットコースターに乗りたくなる感覚というか。リスクを犯しても、新たな承認欲求を満たしたくなる心理というか。」

鼎「経済的に既に成功した人が、ギャンブル中毒になったり、場違いな分野の投資に手を出したり、年収の大幅減も覚悟してあえて苦難の大リーグに挑戦したり、名声を失う覚悟で政界に身を投じたりとか、そんな例も多く見かけるけど、成功者は成功者なりに、さらにリスクや不安を背負っても、冒険したくなるものなのかも知れないね。」

愛原「実際は、異業種に手を出したばかりに破産したり、政界に身を投じたばかりに名声を傷つけたり、総理にさえならなければ有力政治家として一定の名声を保てたのにとか、天下を狙わなければ一族が滅亡させられる事もなかったのにとか、冒険した結果、順調だった人生から転落する例も珍しくない。だがそれでも人は一段落すると、新たな冒険に出たがる生き物なのかも知れない。」

鼎「人は退屈な安心一色でも、絶望につながる程の不安一色でもなく、安心と不安が適度に入り交じるような状況が、一番精神的に落ち着くのかも知れないよね。目標がある状況というか。」

愛原「ファンタジーの主人公達も、不安と希望が入り交じる状況が一番輝いているものだしな。【世界は平和です】のままでは物語は進まない。全てを諦めて絶望したり達観しているままでもやはりダメだ。悩み、葛藤し、怖れ、それでも絶望せずに前に進む状況こそが、人間を最も美しく魅せるのかも知れない。」

鼎「ただ既に自分が安心な位置にいて、退屈だから冒険に出るというなら本人の自由だけど、世の中はそんな人ばかりじゃないよね。求めてもいない不安な状況の中で、それでも果敢に戦い続けている人の方が圧倒的に多そうというか。」

愛原「ま、それはその通りだな。但し、求めてもいない不安な状況の中で、本当に戦っているかどうか否かはその人次第だ。たとえばニートの大半は、将来に不安を感じていると思われるが、だからといって具体的な努力をしているケースはまれだろう(求職者や職業訓練従事者等は、厳密にはニートとはいわないため。)。」

逆沢「上の方で触れたけど、現実逃避して無理矢理安心する事で、不安から目を背けているだけのような気がするわ。」

鼎「私は、失敗する不安の方が大きくて、前に進めなくなっているような気もするけど。確かに将来の不安は大きいけど、求職活動を頑張っても上手くいかない可能性による不安の方が大きいから、不安があっても動きようがないというか。独身で居続ける不安があっても、振られて恥をかく不安の方が大きかったら行動に移せないようなもので。」

愛原「逆沢説も鼎説も、目の前の安心に逃げ込んだという結論は同じだけどな。前者なら将来の不安という現実から逃避して安心に逃げ込んだ。後者なら、失敗する不安を怖れるあまり、失敗しない事による安心を選択した。もちろんこの場合は、将来への不安は全く軽減されないままだから、そちらは見て見ぬふりをする形になり、逆沢説のオチと全く差は無くなる。」

鼎「不安を解消する為には行動するしかないけど、行動する事自体が新たな不安の種(失敗する不安等)を生み出す事もあるし、それで弱気な人程、現実逃避したり、目の前の安心に逃げ込みやすいのかも知れないと思ったかも。」

逆沢「逆に安心に退屈している人や、ストイックな人が冒険したがるのは、不安を解消する度に得られる喜びの大きさを知ってるからかも知れないわね。難局を切り抜けた際の喜び。大きな壁を乗り越えた際の喜び。凡人が達成できない域に到達する喜び。不安が大きいほど、それを乗り越えた喜びが大きい事も知ってるから、どれだけ大きな障害にも立ち向かっていけるというか。」

愛原「体育会系の心理は大体それだな。つらく苦しい練習に耐えられるのも、その先にある喜びを味わうため。だから彼らは失敗しても失敗しても、何度でも立ち上がる。それだけ難易度が高いほど、攻略できた時の喜びも大きくなるから。」

逆沢「逆に何もしない場合は、傷つくこともないかも知れないけど、喜びもないし、退屈もするし、心にぽっかり穴が空く事もあるわね。確か億万長者になった芸能人や元プロ野球選手の中でも、生きる目的を失って、ギャンブルにはまったり、散財して豪遊したり、色々楽しい生き方を見つけようとしたけど、それでも思うようにいかずに、クスリに手を出したり、あるいは最終的に自殺した人もいたはずだけど。」

鼎「億万長者になって、究極の安心と幸福を手に入れたはずなのに自殺って、私達凡人には想像もつかないけど、世の中にはそういう人もいるらしいよね。」

愛原「まぁ歴史上の偉人の中でも、成功して天下人になった後に、生きる方向性を見失ったのか、それまでの波瀾万丈だけどカッコいい人生からすると、想像も出来ないような低レベルで訳の分からない政策ばかりするようになって、世の中を混乱させるタイプは意外といるからな。」

逆沢「究極の安心を手に入れると、今度はそれを守りたくなるという心理もあるかもね。いつまでも安心したいから、不安要素を無くす為に、功臣をどんどん粛正したりとか。」

鼎「私達凡人も、安心を守りたいと考えるようになると、変革や冒険に強い拒否反応を感じる時があるよね。」

愛原「我々は不安を克服する為に努力し、安心しようとする。逆を言えば、今が安心と考える者にとっては、その安心できる状況を変えられる行為は不安以外の何者でもない。故に現状維持を強く切望するようになる。不安を覚える者は現状打破を目指し安心を守りたい者は何としても現状維持しようとするという事かも知れん。」

逆沢「あー、どうみても将来の不安でいっぱいなはずのニートが、色々理由を付けて現状維持を選ぶ理由が分かったわ。彼らはなんだかんだいっても、現状に満足してるって事ね。【働いたら負けだと思ってる】じゃないけど、働かなくていい現状にそれなりに満足している。将来の不安がないと言えば嘘になるけど、それよりも今の安心で快適な環境が壊れる方が余程不安でしょうがないと。」

鼎「私達は将来の不安に備える為に今から自己改善に努力しようとするけど、彼らは今の安心を守る為に周りに自分の生活を変えられない事を望むって事かな? 普通の人が突然失職したら、将来の不安に駆られて急いで次の仕事を探すけど、彼らにとっては仕事のない状態の方が安心で、その生活を変えられたくないと考えるというか。」

愛原「人間が感じる不安の大半は、現在の不安ではなく、将来の不安だと思う。なぜならどれだけ苦しくても、こうして今日も無事に生きているのだから、今日という日まではそれなりには安全だったのだ。ただ将来を考えた時、今より状況が悪化する未来しか見えない時。あるいはいつまでも今の状況から抜け出せない予感しかしない時(いつまでもブラックな職場環境から抜け出せず不安を抱くケースから、これからも退屈な毎日が続く不安を抱くケースまで幅広く)。その時、人は3つの選択肢がある。一つは将来の不安を見て見ぬ振りして、現在の安心に閉じこもる道。2つ目は将来の不安を乗り越える為に、自分なりに対策を打つ道。3つ目は絶望する道。」

逆沢「不安に対してどう立ち向かうかどうかの差って事ね。逃げるか、立ち向かうか?」

鼎「ヒーローといわれる人が取る道は、その中では一つしか無いと思うけど。」

愛原「ま、不安が大きすぎると、逃げたり絶望したくなる気持ちは分かるけどな。環境の変化があまりに大きすぎて、攻略の取っ掛かりすら見つからない状況とか。あるいはあまりに大きく落ちこぼれて、やはりどこから手を付けたら這い上がれるかが全く見通せない状況とか。」

逆沢「そうなると、不安でパニックになるか、現実逃避するかのいずれかになるわけね。で、現実逃避した場合は、今の見せかけの安心を守る為にひたすら現状維持しようとすると。周りがその人の将来を心配して声をかけてあげても、その人にとっては逃避した空想世界から引き戻すありがた迷惑でしかないから、激しく抵抗したりして。」

愛原「人間、何事もほどほどが一番なのかも知れん。安心と不安のバランスが適度に取れた状態。安心に偏ると、心の中が空っぽになったり、あるいは痛覚を感じない人のように危機管理能力が欠如して、取り返しの付かない状態になりやすい。逆に不安に偏ると、現実逃避するか、パニックになるかで、やはりロクな事は無い。安心と思い込むのでもなく、不安に押しつぶされるのでもなく、適度の不安を感じながら、その上で適切に行動できる状態。それが人間として最も正常かつ美しい状態なのだろうとも思う。」

逆沢「適度に悩み、葛藤し、怖れ、その上で強く生き抜き、一つの山を越えたときに時に大きな達成感に歓喜する生き方ってのは、誰にとっても絵になるからね。逆に苦難に挑もうともせず安心しきってだらけてるだけの怠惰なデブも、勝手に絶望して周囲に殺伐な空気しかまき散らさない神経質も、私はノーサンキューだわ。」

鼎「適度な緊張感というのかな。不安があるからこそ安心できた時の喜びも大きいし、不安と安心をバランス良く取り入れて、素晴らしい人生にできたらいいよね。」
















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