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愛原様のたわごと(16年7月10日)







愛原「前回、少子高齢化という、やっつけるにはかなり厄介な悪玉(問題)について触れてみたが、今回もそんな極めて厄介な悪玉について触れてみたいと思う。即ち、社会的弱者だ。」

鼎「弱者が悪玉? 確かに悪い弱者も中には含まれるだろうけど、表現としてはかなり違和感があるかも。」

愛原「それはその通りだと思う。俺も、いきなり他者にそう断言されたら、まずカチンと来る側だからな。しかし、本来カチンとする側の人間だからこそ、あえて言える事もある。まず何よりも言えるのは、弱者は本質的に不満分子なんだという事。自分が弱者である事に満足感を抱いている人など、かなりの少数派だと思うし、そもそも人間に向上心や競争本能がある以上、弱者が今の自分に不満を感じる心理自体はむしろ正常だとも言わざるを得ない。」

逆沢「努力しようとか、頑張ろうとか、少しでも上を目指そうという気持ち自体は、至って健全だと思うわ。それを忘れた人間は、大体堕落の道に進むだけだろうし。」

愛原「そう。向上心があるのはいい事だ。故に自分が強者であると思い込み、慢心し、油断し、他者を見下し、ただ安心して怠惰をむさぼるだけの人間よりは、常に自らをちっぽけな人間だと戒められるだけの人間の方が、本質的に強靱になり得る側面はあるだろう。」

鼎「ストイックと言われるような人は、大体そうだよね。どれだけ偉くなっても、常に謙虚で、今の自分に満足することもなく、油断もなく、純粋にさらに高みを目指す気迫がすごいというか。」

愛原「しかし悲しいかな。人は努力した分だけ報われるとは限らない。また、逆に生まれながらにして強者の側に立っていて、大して努力をしなくとも、強者としてのうまみだけを享受している人も多い。人はそんな現実を見て何を思うか? 即ち、不満を抱くのだ。」

逆沢「つまり、弱者である事の不満から、悪事に手を染める人がいるという事が言いたい訳か?」

愛原「イエス。近年、世界中で起きている移民排斥運動を見ていると、世界中で悪玉としての弱者が異常に増幅しているような気がしてならない。それこそ、ナチスドイツ的な排他的右翼が世界中の至る所で権力を行使しかねない不安すらあるというか。」

逆沢「あー、アメリカのトランプ旋風もそうだし、イギリスでも移民排斥目的の為にEU離脱を支持した層は、日頃から移民によって職を奪われていると感じている貧しい層が中心でもある報道も聞いたわ。」

鼎「この前もイスラム圏でテロがあって、たまたま日本人が巻き込まれたから珍しく大きな報道として扱われてたけど、これもテロを起こした側からみれば、移民排斥運動そのものだよね。」

逆沢「あー、バングラデシュのあれか。そりゃあ憎まれても仕方ないわ。現地の人がおいそれと手が出せない高級レストランに、外国人ばかりが集まって優雅に食事なんかしていようものなら。某テレビ局の司会が、このテロ事件に際して【途上国の発展のためを思って頑張っている人達が、非道なテロリストによって殺された】みたいなコメントしてたけど、なんか文明の遅れている朝鮮人達のために鉄道も敷いて頑張っている伊藤博文が非道なテロリストに襲われた的な、上から目線の傲慢さを感じたというか。」

愛原「あいつら、伊藤博文が殺されるほんの数十年前に攘夷運動や生麦事件を起こしたのがどこの国の人間なのか、全然理解してないんだろうな。幕末当時の欧米人が【日本人のためを思って】日本に開国と文明開化の圧力をかけた訳でもないし、また当時の日本人がどうして外国人排斥運動をあれだけ大規模に起こしたのかも。」

逆沢「イスラム国自体が、巨大な尊皇(但し仰ぐ対象は皇室ではなくイスラム教だけど)攘夷運動みたいなものともいえるしね。」

愛原「幕末当時の欧州列強が【日本人のためを思って】マーケットの開放を迫ったわけでもないように、バングラデシュでの活動も、中国をはじめとした他国に競り勝つ為の経済活動&集票活動でしかないからな。そういう側面を無視して【発展途上国のためを思って】的な報道には、正直違和感がある。」

逆沢「中国なんかは、アフリカに対して日本の何十倍もの支援をしていて、そのおかげでアフリカでは新中国系の国がかなり増えてるけど、だからといって【中国は発展途上国のためを思ってすごく積極的に活動している極めて人道的な国だ】とは言い切れないようなものね。」

愛原「強者は、片手で握手を求めながら、もう片手にはしっかりと銃を握っているからな。幕末当時の日本にしても、確かに【日本人のためを思って】積極的に文化や技術の進歩に貢献した欧米人はいただろう。しかし同時に彼らは、自分達の言いなりにならない日本人を、大砲で威圧し、場合によっては実際に武力を行使する残酷性も持っている。それはイスラム国に対して容赦の無いアメリカにしても、中国や日本(特に大日本帝国時代)にしてもおそらく大差ない。」

鼎「そして、そんな先進国の偽善を通り越した傲慢を知っているからこそ、彼らは尊皇攘夷運動ばかりのテロも辞さないということかな?」

愛原「その一方で、先進国の住民も、今までのように強者としての傲慢だけを享受できなくなっている。アメリカやイギリスなどでは、押し寄せてくる移民によって職を奪われる不安におびえる層が急増しているし、それ以外の先進国でも、物価の安い国に次々工場などが移転していく空洞化現象などによってあおりを食っている層はいるだろう。また中国やインドを始めとする発展途上国が、先進国並に力を付けること自体を驚異視する先進国住民も多いはずだ。」

逆沢「なる程。発展途上国の弱者は強者の傲慢に強い憎しみを覚え、その一方で先進国でも、優秀な移民や急成長する新興国に強い憎しみを感じつつある住民が増えているという事ね。」

愛原「さて、ここからが本題だ。まず弱者が強者と戦ったらどうなるだろうか?」

逆沢「強者に勝てるなら、既に弱者ではないわね。」

鼎「良くても相打ちかな? でも弱者の立場からすれば、強者にダメージを与えられれば十分だという考え方もあるよ。たとえば弱者が強者の言いなりになって【強者と弱者の格差が広がり続ける】よりは、強者に少しでもダメージを与える方がマシという考え方は普通にアリだとも思うし。」

逆沢「勝てなくとも、相手にダメージを与える事ができれば、相手が撤退するきっかけくらいにはなるだろうというのは、戦略として普通にアリね。ベトナムがアメリカ大陸を制圧するのは不可能でも、相手にこれ以上の戦争継続は割に合わないと思わせる事で撤退させることができれば、これ以上の被害の拡大を防いだということで、実質的に勝利と言えるようなもので。」

愛原「不良のパシリ状態から逃れる為に、あえて不良に喧嘩を売る的考え方でもあるな。喧嘩自体に勝てなくとも、不良に【コイツと関わるとやべ〜】くらいに思わせる事ができれば、これ以上パシリにされるような事は無くなるだろうみたいなもので。強者が弱者から搾取し続けるサイクルから抜け出すために、勝敗を度外視した反抗に打って出るというのは、普通に戦略としてあり得る。そういう意味で【弱者が、勝敗を度外視した戦いに出る】事が必ずしも誤りとは言い切れないのは分かる。」

逆沢「そんな戦略的・論理的な考えとか抜きにしても、単純に【自分だけがどんどん不幸になっていく一方で、嫌いな奴がどんどん幸福になっていく】くらいなら、嫌いな奴もろとも自爆した方がマシというか、【自分は不幸な状態だけど、他人は幸福な状態】よりは【自分も他人も不幸な状態】の方がまだマシという考え方も、私は普通にあり得ると思うわ。」

鼎「怨恨が理由の犯罪は、大体そんな発想だよね。犯罪を犯せば自分もただでは済まないのがほとんどだけど、それでもそれに突き進まざるを得ない心境というか。」

愛原「いじめられっ子がいじめっ子に対して復讐をするケース。外国人実習生などの労働者がブラック経営者に対して反旗を翻すケース。家庭内暴力を繰り返す伴侶から逃れるべく反撃を試みたケース。もっと広く見れば、生麦事件や伊藤博文暗殺事件やバングラデシュでのテロ事件にしても、怨恨を抱いた側が、自分自身の損得を度外視してまで、強者に対して一矢報いようとした結果と言えなくもない。」

鼎「秋葉原事件をはじめとして、世の中に不満を抱いている人が見ず知らずの誰かを襲う、通り魔的殺傷事件も後を絶たないけど、その根底には、そういう心理もあるのかな?」

愛原「それをする事で自分が幸せになれる訳でもないし、まして世の中が変えられるはずがないと分かっていても、一矢報いたいと思う心理は十分理解できる。」

逆沢「そういう人達に対して、【お前一人だけが不幸になってろ。他人まで巻き添えにするな】とよく言い放ったりする人もいるけどね。」

鼎「そういう事を平然と言える人に限って、いざ自分が不幸な立場になったら、その不幸を自分一人だけで抱え込もうとせずに、その理不尽を他者にぶつけようとするような気がするけど。」

逆沢「あはは! 他人に対して日頃から酷薄な人ならそうかもね。」

愛原「他人に対する思いやりがない人ほど、不幸な立場で苦しんでいる人に対しても冷たくなりやすい。だからその人が思い悩む背景に寄り添うこともなく【他人を巻き込むな】と平然と言い放つ事もできる。しかし他人に対して冷酷な性格故に、いざ自分がその不幸な立場になったら、他人の人生の重みを感じる事も無く、むしろ他人の人生を容赦なく破壊する側に回る。俺に言わせれば、沖縄に米軍基地が集まる現状に際して冷酷にそれを容認するべく言い放つ人間ほど、いざ自分の地元に産廃処理場や放射能廃棄物最終処分場などが来るとなったら理由をこね回して徹底的に抵抗するような気もするし。安易に移民や在日出て行けと言い放つ人間も、本質的にそれらとイコールだ。自分の身だけが可愛くて、それによって理不尽な差別や痛みを感じている人の気持ちに寄り添う事が出来ず、むしろ彼らが感じている痛みの傷口を広げるような真似しかしない。」

鼎「自分を苦しめている人に対して復讐するというなら話は分からなくもないけど、誰でも良かった的犯行とか、自分より弱い相手を見つけて憂さ晴らしするような八つ当たり的犯行とかを聞くと、すごく残念な気持ちになるよ。」

逆沢「憂さ晴らし的犯行というと、花壇を荒らしたり、車を傷つけたり、放火したり、通り魔的に人を襲ったりとかか。そんなことをしても、何の解決にもならないし、一文の得にもならないのに。」

愛原「世の中には、強者弱者の2種類の他に、自分を強者と思い込みたがる人間と、自分を弱者と思い込みたがる人間の2種類もいる。そしてこの両軸を組み合わせた結果、強者の自覚がある強者は傲慢に弱者を蹂躙し、強者の自覚のない強者はストイックに更なる高みを目指し、弱者の自覚がある弱者は問題解決の為に真摯に動くなり現実に対応するなりし、弱者の自覚のない弱者は【酸っぱいブドウ】の話に出てくる狐のように勝手な妄想をして自分を安心させようとする。基本的に現実逃避ばかりしたがるから、見当違いの相手に憎しみを募らせたり、見下して安心しようとしたり、ひどい場合はたとえば自分を立場を悪化させている悪玉を支持して、悪玉を倒そうと努力している層に対して危害を加える事すら珍しくない。」

逆沢「自分自身が富裕層との格差に悩んでいる立場なのに、なぜか格差拡大を図る陣営を支持し続けるような変な人も、確かに世の中にはいるわね。自分自身は強者だと勘違いしているのかどうか分からないけど。」

鼎「アメリカやイギリスでも、移民に仕事を取られる社会的弱者の話は聞くけど、その人達の論理を聞くと【英語も満足に話せないようなクズ達よりも、自分達の方がずっと優秀なのに、その優秀な自分を雇わずに移民ばかり優遇する今の社会はおかしい】みたいな主張もあるそうだよ。つまり就職活動に負ける弱者としての自分を受け容れようとせず、英語を話せるとか、国籍を(先に)取得しているという強者としての自分を前面に出す事で、自分を正当化・優位化しようとしているのかも。」

愛原「自分自身が、弱者だと認めるのが恥ずかしいのかな? 自分達が日頃から見下している移民に就業実態で負けている時点で、既に移民以下の存在価値と社会から突きつけられている現実があるにも関わらず。」

鼎「イギリスの移民排斥支持層の論理からすると、在日特権ならぬ移民特権のせいで、移民が多数押し寄せてきて自分達の権利を脅かすようになったという事でもあるらしいけど。」

愛原「なんか障害者支援制度に対して、障害者特権だと怒ってるような印象を受けるな。俺達は国から何の支援も受けていないのに、障害者は障害者というだけで国からこんなにお金をもらえてずるいとか、盲目の障害者だけ犬を連れて入れる店があるなんてずるいとか、障害者を雇ったら行政から補助金が出る制度のせいで俺達健常者の雇用が奪われていて理不尽だとか、言ってるようなもので。」

逆沢「まぁ、生活保護制度自体に強い怒りを感じている人達もいるからねー。俺達は行政から何の支援も受けていないのに、あいつらだけお金もらえてずるいみたいな感じで。」

鼎「でも気持ちは少しだけ分からなくもないかも。私も、カクニンジャとか言ってる高齢者向け臨時給付金制度とか見てると、利権誘導目的の特権と感じなくも無いし。」

愛原「生活保護制度にしても障害者支援制度にしても、弱者向け支援という名のセーフティーネットというか福祉制度でしかなく、それを特権呼ばわりされるのは個人的に残念だ。一部先進国で行われている移民優遇(?)策にしても、過疎地における人口対策や、地方における企業誘致政策と同じで、それらを特権の二文字で安易に批判対象にはしたくない。まぁ確かに、カクニンジャのあれに関しては、弱者向け支援の面を装ったただの選挙対策にしか見えないが。支給時期もアレだが、そもそも日本の高齢層は若年層と比べて総じて裕福だし、まして貧しい高齢者ほど高齢になっても働き続けなければならない現状があるにも関わらず、そんな働く彼ら(正確には住民税の課税対象になる層)は支給対象にならず、高額な退職金や共済年金等のおかげで悠々自適の隠居生活を満喫している層こそ支給対象になる矛盾すらあるわけだから、まぁ言いたい事は分かるが。」

逆沢「ナントカ特権と言われるものに関しては、特権の名に値しないセーフティネット関連から、本当に特権以外の何者でしかないものまであるから、見分けるのが大変だわ。」

愛原「見分けるのが大変というか、人によってモノサシが違うからなぁ。例えば俺にしても、生活保護の制度全てが妥当とはとても思ってないし、特に医療費無料とかは明らかにおかしいとも思っているし。戦没者遺族に対する年金制度にしても、その額の大きさや、空爆死没者などのその他の要因による戦災死没者・戦没者遺族に対する待遇と比べると、著しく公平さに欠ける事もあって、これは特権、もしくは集票を目的とした利権誘導くらいには思っている。」

逆沢「このモノサシの違いが厄介なのね。人によってどこまでが特権で、どこまでが福祉といえるかの分岐点は違うだろうし。」

愛原「モノサシの違いは仕方ないが、モノサシの使い分けは許せないけどな。審判によって野球のストライクゾーンが多少変わるのは仕方ないが、どのチームが攻撃中かによってストライクゾーンが狭くなったり広くなったり変動するのはさすがにまずい。」

鼎「誰にとっても優しいとか、誰に対しても厳しいとかなら話は分かるけど、あの人には優しいけど自分には厳しいとかだと、さすがに理不尽に感じるよね。」

愛原「うん。だから戦没者遺族に対する遺族年金にしろ、消費税にしても、その額面や利率に関しては、それほど問題視しない。北欧のような高福祉高負担でも、逆にアメリカのような自己責任路線でも、公平ならな。」

逆沢「ただ公平という目線も、欲深い人にかかると【自分が得られない恩恵】を他人が享受しているだけで不公平に映るというのは、あるかもね。既に子供や孫が未成年でない高齢層などにしてみれば、どんな少子化対策も、特定世帯に対する特権にしか見えないだろうし。移民でない人からすれば移民しか対象にならない支援制度は特権にしか見えない。現地既存の企業にしてみれば行政による企業誘致政策も、新規対象企業に対する特権にしか見えない。古くから過疎地に住んでいる人からすれば、行政による新世帯の誘致政策も同様に特権にしか見えない。障害者でない人からすれば、各種の障害者支援制度自体が障害者特権にしか見えない。みたいな感じで。」

愛原「そんな欲深い人達が増えて、自らの既得権益ばかりを主張しだした結果が、今の世界的右傾化現象なのかも知れんな。」

逆沢「イギリスのEU離脱派の主張とか聞いてると、本当にそんな感じにしか思えないわ。移民とEU加盟による関税政策等のおかげで衰退していく大英帝国の国力をなんとか食い止められている側面もあるのに、その現実を無視してるあたり。」

愛原「ただ、それでも俺は、EU離脱派に寄り添いたくなる部分もかなりあるんだけどな。」

逆沢「お前は、そもそも移民排斥運動に抵抗する側の考えじゃ無かったのか?」

愛原「それでもイギリスのEU離脱派、あるいはアメリカのトランプ支持層に寄り添いたくなる部分も、やはりかなりあるんだ。なぜなら、彼らがそういう心境に追い詰められた理由に関して、同調したくなる部分もあるから。」

鼎「要するに、彼らが自分達の不幸な境遇を移民のせいにしたくなる程、追い詰められた理由が気にかかるからって事かな?」

愛原「そう。イギリスもアメリカも、世界全体で見て特に新自由主義が台頭している共通点があり、貧富の差が年々激しくなっている。アメリカンドリームで成り上がれる人間なんて、ドリームジャンボで高額当選する確率よりもはるかに低く、格差の固定化と拡大は留まるところを知らず。つまり弱者が真面目に努力して何とかなるようなレベルではもはや無い。弱者が強者と戦っても勝ち目がない上、このまま弱者と強者の格差が拡大していく一方ならば、勝ち負けは度外視で、とにかく社会に一矢報いたいと考えてもおかしくない。」

鼎「ぶっちゃけて言うと、今の状態を変えることで世の中が良くなるかどうかは二の次で、とにかく現状維持はもうたくさんだって事かな?」

逆沢「なるほど。チェンジを合い言葉にしたオバマが大統領になれた理由もそれね。まぁ日本でも、改革をキーワードにした小泉政権が大躍進したりしたけど、変える事で良くなるかどうかは別にして、現状維持に不満を持つ層にしてみれば、とにかく現状を変えてくれる可能性があるなら、それに賭けない手はないと。」

愛原「アメリカやイギリスでも、既存の政権は、増えていく一方の弱者に寄り添うことができなかった。その結果、増えていく弱者が多数決主義の民主主義制度上で力を持ち、今のような現状になったともいえなくもない。」

逆沢「つまり仮に弱者が集まって既存政権を倒した結果、仮により状況が悪化しても、それは必ずしも弱者達が判断ミスしたせいではないと。」

愛原「仮に【自分は不幸だけど、他人は幸福な状態】よりも、【自分も他人も、不幸な状態】の方がマシだとするなら、とりあえず現状をリセットする選択肢もアリだろう。まぁそういう発想があり得るからこそ、いじめっ子が思わぬ反撃受けたり、ブラック企業の悪行が暴露されたり、秋葉原で無差別殺人に巻き込まれたり、良くも悪くも色々あるわけだが。」

逆沢「いじめっ子やブラック企業が、弱者による捨て身の攻撃でダメージを受けるのは構わないけど、自分は何も悪くないのに巻き込まれるのは正直困る。」

愛原「弱者でも二種類いるからな。自分を不遇な境遇に堕とした元凶を正しく把握している人間と、妄想の殻に閉じこもったあげく、弱い自分でも勝てる相手に八つ当たりする事でしか不満を発散できないタイプ。後者は、無関係の他人や、社会的弱者に突然牙をむいてくる事があるから正直困る。ただ前者でも、強引に不毛な二択を迫られたら、危険な選択肢を選んでしまう可能性は高いけどな。」

逆沢「イギリスのブレグジットのような二択ね。」

愛原「イギリスの社会的弱者にとって真の敵は、そういう境遇に追い込んだ政権であるはずだ。だがブレグジットの二択には、EUに残留するという現状維持と、EU離脱という現状打破の二つしか無い。そして厄介な事に、仮に現状維持を選択した場合、それは自らの意思で今の不遇な境遇を追認した形にならざるを得ないということ。そしてキャメロン首相の思惑も、まさにそれだったんだろう。スコットランドの独立を巡る投票の時と同じように。」

逆沢「常識で判断すれば、スコットランドの独立もEUの離脱もあり得ない。そして住民投票という場で堂々と現状維持派が勝つ事で、小うるさい反対派も黙らせることが出来るだろうという皮算用ね。」

鼎「スコットランドの住民も、何も独立が本目的ではなく、北海油田などの特産物も持ちながら、ロンドンを中心とした都心部に美味しいところを取られているという不満から、少しでも現状を良くしたいという思いが中心だったと思うよ。けど結果的には接戦であったにも関わらず、現状維持派が勝った事で、スコットランドの現状も期待ほど良くならずに終わってしまった。なぜならスコットランドの住民自体が今の不遇な状態で満足していると、現状維持派が勝った事で解釈されてしまったから。そしてそんな背景があるからこそ、キャメロン首相は味をしめて、二匹目のドジョウを捕らえるべく、今度は移民政策に反対する貧しい層を黙らせる為にEU離脱の是非を巡る住民投票を行ったって所かな?」

逆沢「けどスコットランド独立を巡る住民投票の結果、どうなったかを知っているイギリスの住民は、キャメロン首相が画策した同じ手には引っかからなかったという事か?」

愛原「この正解の無い二択は、時の政権がよく使用する手でもあるけどな。たとえば【東京電力を倒産させる事で関東地方全域の電気を止める】か、【東京電力の責任を一切問わず、その再建に全力を注ぐ】の二択しかないなら、常識的な住民は、大体後者を選ぶだろう。」

逆沢「実際には、東京電力を倒産させても、その前かその作業過程で、他の電力会社に経営権を売却させたら、関東地方の電力が止まるなんて事はあり得ないけどね。シャープが身売りしたからといって、シャープ製品のアフターサービスが無くなったり、従業員が全解雇されたりしないみたいに。」

鼎「東電の経営者が誰一人経営責任を問われず、法的にも裁かれず、それどころか当時は警察が東電の幹部が暴漢に襲われる可能性を危惧してSPを買って出るとか、彼らに対する厚遇がすごく印象に残ってるよ。」

逆沢「私達一般人がストーカー被害に遭ってても、絶対に警察がSPをつけたりしてくれないのに、あれだけどでかい災厄をもたらして誰に命を狙われてもおかしくない組織のトップ達の身辺を守るためになんで警察がSPを買って出るのか、色々訳わからんわ。」

愛原「正解の無い二択をあえて提示し、その二択の内の一方が常識的にあり得ない内容だった場合、人々は多少不満があっても、まだマシな選択肢を選ぶからな。ちなみにこの不毛な二択作戦は、選挙にもよく使われる手だけど。」

鼎「片方の選択肢をあり得ない印象にできれば、もう片方の選択肢がどれだけ不評でも、人々はしぶしぶ受け容れる。そして民意を盾に不評なそれを推し進めるって算段かな?」

逆沢「けどマシな選択肢を選び続けた結果、じわりじわりと状況がさらに悪化して、真綿でどんどん首が絞められている状態が進行すると、人はやがて冒険的な選択肢を選ぶ可能性もあると。イギリスのEU離脱とか、アメリカのトランプ支持みたいに。」

鼎「正解の無い二択ではなく、もっとまともな選択肢も増やして、全体がより良い方法を選べるようにすればいいのにね。スコットランドの件で言えば、現状維持か独立化の二択ではなく、スコットランドの住民が持つ不満部分の解消にスポットを当てた選択肢も用意するなど。」

逆沢「そういうまともな選択肢を用意したくなかったから、強引な二択に持ち込んだんじゃ無いかな? 東京電力の件にしても、上層部の経営責任を問うことや、東京電力自体の身売りも含めて賠償責任を重く問う形に出来れば、危険な原発を安易に動かすリスクを他の電力会社も肌で感じて、もう回すのを辞めるなり、あるいは回すにしても、もし同じ悲劇が起きたら会社の身売りや上層部の逮捕と直結する分、管理も真剣になるだろうけど、それを嫌がる層がいたからこそ、あのような不毛な二択論まで出てきたりしたんだろうし。」

愛原「何も改善しようとせず現状維持と、とんでもない極論の二択だけを示す事で、最も現実的な改善案が闇に葬られるという構図だな。」

鼎「戦争か、滅亡か? みたいな二択を迫って、無理矢理、国民を戦争支持に巻き込む手口みたいだよね。」

逆沢「【テロリストをかくまうものはテロリスト】もそうね。アメリカの戦争を支持しなければ敵認定するぞと脅して、中立という選択肢を無理矢理排除させて、アメリカの敵か味方かの二択を迫るやり方にも似てるというか。」

愛原「いずれにしろこういう正解の無い不毛な二択を繰り返していると、イギリスのブレグジット投票みたいに、いつの日か、誰もが思いもしないような選択肢が選ばれる時が来る。人は【自分は不幸なままでも、他人が幸せならそれでいい】と思えるような聖人ばかりではないからだ。」

鼎「弱者の不満をそのままにしておくと、彼らが何らかの形で牙をむいてきてもおかしくないって事かな?」

愛原「キャメロン首相的発想で言えば、人間に理性がある限り、非常識な選択肢を選ぶくらいなら、多少不満があろうとも現状の方を選ぶだろうという形になるんだろうけどな。」

逆沢「ブラック企業の経営者でいえば、無職になって困るくらいなら、多少賃金が安くて労働がきつくとも現状を受け容れるだろうとタカをくくってる状態みたいなものか?」

愛原「いじめっ子が、俺に逆らったらもっと痛い目に遭う事も分かってるだろうし、このままイジメを続けても問題ないだろうと、タカをくくって調子に乗っている状態に近いかも知れんな。」

鼎「けどあまりにも抑圧状態を続けていると、いずれ暴発するときが来てもおかしくないって事だよね。」

愛原「実際、世界的に右傾化現象が強まって、世の中がかなりきな臭くなりつつあるからな。格差の拡大によって不満を持つ弱者が世界規模で増えて、その弱者による八つ当たりの類いも加速度的に増えている。」

逆沢「本来、差別を公言するような人はかなり恥ずかしい存在だったんだけど、アメリカでもイギリスでも日本でも、そういう恥ずかしいはずの存在が群れを成す事で変に力を付けつつあるみたいだしねー。」

鼎「特に離脱派が勝利したイギリスでは、排他主義者がますます勢いづいて、移民に対する憎悪犯罪(暴力・暴言・差別的対応などの嫌がらせ等)が激増しているらしいよ。」

逆沢「【赤信号みんなで渡れば怖くない】という事か? かつての中国の愛国無罪デモを笑えないというか、英国紳士も地に落ちたものねー。」

愛原「しかしそうやって社会的弱者を上から目線で見下しているようでは、自分も目くそ鼻くそだぞ。」

逆沢「いや、そんなヘイトスピーチ上等の連中は、実質的には弱者であっても、当人自身は他人を差別してるくらいだから強者と思い込んでるみたいだし、そんな奴らに気遣いは無用じゃね? 弱者をなぶるのはただのイジメだけど、自分が強者とか強いとか偉いとか、思い込んでる馬鹿を叩きのめすのは、少年漫画でも痛快な一シーンでしか無いから。」

愛原「・・・ごもっとも。まぁ自分が強いとか偉いとか思い込んでる妄想馬鹿は放っておくとしても、自分が弱者である事を自覚してなお、その不遇な環境から抜け出しがたく、それ故に不満を高めている層に対しては、俺は無慈悲にはなれない。【お前一人で不幸を抱え込め。他人を巻き添えにするな】みたいな対応をするのではなく、もう少し何とかできないかとも考えてしまうのだ。」

逆沢「だったらもう、不満の根源を絶つしか無いわ。といっても、たとえば移民を排斥すればいいって事では無いわよ。移民の少ない日本でも在日外国人などに対する排斥運動はあるし、そもそもそういう存在自体が存在しない国でも、人種差別とか、身分差別とか、部落(地域)差別とか、学歴差別とか、職業差別とか、男女差別とか、差別の種類は無限にあって、要するに誰かが八つ当たりのはけ口にされ続けるであろう構図に変わりは無いから。」

鼎「特にアメリカなどは元々移民国家な訳だから移民差別という概念自体がおかしくて、実質は古くから続く人種差別の一環だよね。黒人は奴隷制度があった頃からずっと一貫して差別され続けてきて、日系も太平洋戦争時はすごく差別的対応を受けてきたし、今はヒスパニック系やイスラム系が増えているからそれがやり玉にあげられているだけで。」

逆沢「所詮は八つ当たりでしかない以上、当面の八つ当たりの相手がいなくなった場合は、別の誰かに八つ当たりの矛先が向かうだけでしかないと思うわ。会社でも学校でも家庭でも、元々八つ当たりが好きな人間は、今まで八つ当たりしてきた人間がいなくなったら善人に戻るなんて事は無くて、不満の根源が解消されない限りは、どうせ別の誰かに八つ当たりを繰り返すだけだから。」

愛原「根っからのサディストやサイコパスなら、不満があろうと無かろうと、他人が嫌がる事をする事で快楽を感じる体質だから改善はできない。しかし不満が原因で八つ当たりしたい心境に陥ってるだけの人間なら、不満を和らげることで本来の健常な人間に戻す事が可能だ。だが残念な事に、今の世の中は、強い不満を持って当然の弱者が増える一方で、それらが徒党を組むことで恥ずかしい行動を堂々とできるまでに、勢力を強めているのが問題だ。」

鼎「アメリカやイギリスなどなら、移民が増えたという分かりやすい世の中の変化があるから話は分かるけど、日本はどうしてそうなっちゃったのかな? 別に在日と言われる人が近年急増したわけでもないのに・・・。」

逆沢「弱者が増えてもおかしくない社会の変化自体はかなりあるんじゃないの? 20年前のバブル崩壊以来長く続く経済の停滞とか、非正規と呼ばれる不安定な労働層の急増とか、安倍政権のトリクルダウン理論に基づく格差拡大とか。日本における移民排斥論は、妄想好きの社会的弱者と、社会的弱者の怒りを別の方向に振り向けたい右派権力層による世論誘導策が合体した結果、巻き起こった、八つ当たりの排斥運動でしかないというか。」

鼎「そう考えると、本当に悪いのは、弱者を増やすような政策を推進している人達と、そういう悪い人達に怒りの矛先が向かわないように、八つ当たりの対象を与えてそちらに怒りの矛先を誘導している人達だよね。」

愛原「少なくともトランプが移民排斥運動をどれだけ進めても、排斥派の鬱憤が少し晴れるだけで、社会的弱者の生活環境が改善されるわけでは無い事だけは言える。アメリカの格差がむごいのは、トランプ自身を含む一部富裕層による富の固定化が原因であり、そこにメスを入れないとどうにもならん。トランプがやってるのは、ヒトラーによるユダヤ弾圧と何ら変わりない。ユダヤ人をどれだけ弾圧しても、それでドイツ国民の生活が楽になる訳でもないのに、それでも彼らが悪いと煽り続ける事で、八つ当たりの対象を国民に提供する事で、大衆の不満のはけ口を用意したナチスのやり方に似ていて、どうにも好きになれない。」

逆沢「私、ふと思ったんだけど、もしかしたら故意に弱者を増産して、弱者が八つ当たりしたくなるように仕向けている可能性とかないかな?」

愛原「そんなことしても、不確定要素が増えるだけのような気がするが。それこそこの前のイギリスの住民投票のように、権力層の意図通りに動かない可能性もあるし。」

逆沢「けど権力者ってのは、大体傲慢で自分の思い通りに世の中を動かせると信じてそうな人も多そうだしねー。それに時の政権が戦争を望んだり、あるいは対立を煽りたい時には、不満を持ってる弱者をわざと増やして、その上で八つ当たりの対象を与えるのが、一番効率的なようにも思えるし。」

鼎「幸福感のある人ほど、無闇にリスクも取らないし、理性的・人道的に考えがちだから、扇動には不向きだし、そういう意味では故意に不満を持っている層を増やした方が扇動しやすいと考える人がいてもおかしくないとは、私も思ったかも。」

逆沢「そうそう。追い詰められている人間ほど、だますのも操るのも簡単というか。生活に余裕がある人に、オレオレ詐欺の片棒を担げとか、人殺しの手伝いをしろと言ってもまず相手にされないけど、追い詰められる程に貧しい人に対してなら、犯罪の片棒を担ぐように要求しても十分乗ってくる可能性は高まるし。憎悪に染まった人間をあおれば、人殺しにすら協力してくれそうな側面もあると思うし。」

愛原「なる程なぁ。故意に不幸な人を増やす事で、非理性的な大衆を増やし、扇動しようと企む輩がいてもおかしくないって事か?」

逆沢「その点、大半の途上国とかアメリカなんかは、貧富の差が惨すぎるから、マフィアなどの犯罪組織からすれば、犯罪に加担してくれるメンバーの募集に事欠かない気もするし。」

鼎「貧しい人が増えれば、ブラック企業なども、より低待遇で雇用しやすくなるだろうし、そういう人達にとっても都合が良いかも。」

愛原「戦争したいとか、テロ起こしたいとか、そういう風に考える層からしてみても、弱者が増えた方が都合がよさそうだしな。常識的な人間なら、人殺しなどにはまずためらいが生じるだろうけども、ちょっと憎しみを煽ってやれば簡単に死をも怖れぬ狂戦士に変貌してくれるような層が大量生産できれば、こんなに都合のいい話はないだろうし。」

鼎「でもそういう層が増えると、混乱を望まない一般の大衆にとっては、驚異以外の何者でも無いよね。」

逆沢「今の日本でも、見ず知らずの人間にある日突然襲われる可能性はそこそこあるけど、いつ社会に牙をむくか分からない層が、これ以上増えるのは勘弁願いたいわね。」

愛原「といっても、誰だって弱者になりたくて弱者になってる訳じゃない。犯罪を犯したくて犯しているわけでもない。精神的、あるいは経済的に追い詰められた結果、タガがゆるんで、そういう不幸を引き起こしてしまうんだ。我々は、そういう人達に対して、愚民とか、愚かな大衆とか、落ちこぼれなど、そういった表現で上から目線で突き放しがちだが、それは自分に自覚症状がないか、もしくはたまたま幸福な環境に置かれているから理解できないだけで、誰だって知らず知らずのうちに八つ当たりに加担したり、自爆的行動を取ってしまったりする事はある。まずはそれをよく理解する必要がある。」

逆沢「その上で、これ以上弱者が増えるような世の中にしないこと。そして弱者の不満をあおって、変な方向に八つ当たりの矛先を誘導する奴をのさばらせないようにすること。そういうのが大事そうね。」

鼎「ファンタジーの世界では、善人の仮面をかぶった邪教の教祖などが、その手の悪玉としてぴったり当てはまりそうだよね。」

逆沢「あるいは、外面だけ立派な悪徳カリスマ政治家とか。」

愛原「という訳で今回のテーマは【社会的弱者を量産し、彼らを悪の先兵にいざなう者】。前回同様、割と現実に起こりそうな近未来ファンタジーの世界観について取り上げてみたぞ。」

逆沢「格差がさらに拡大して弱者が量産される事で、ますます世の中がすさんでいく世界なんて、本当にファンタジーの世界だけにして欲しいわね。」













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