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愛原様のたわごと(16年8月7日)





愛原「今回のテーマは、【(優秀な)下っ端】。軍隊で言うところの二等兵やら一般兵など。会社組織で言うところの平社員。もっとも今は、契約社員やパートなどをさらにその下扱いしている所もままあるが、ともかくそういう地位にある者の価値について、ちょっと考えてみたいと思う。」

逆沢「つまり、いわゆる社会的弱者という事か?」

愛原「違う。・・・と言いたいのが本音だが、まぁ待遇面において、下っ端の対極に当たる上層部や幹部と比べると、相対的に低待遇で有りがちなのは事実ではあろうな。だが、ここでちょっと考えてみて欲しい。下っ端がいない組織は、果たして組織としてちゃんと機能し得るものなのだろうか?」

鼎「つまり軍隊で言えば、【士官級だけで戦ができるのか?】という問題提起だよね。」

逆沢「一般兵抜きで戦なんかできっこないだろ。一般企業でもそう。現場作業員なくしてモノは作れないし、営業マンや店員なくして物を売るのは至難だろ?」

愛原「そういう事だ。たとえば今はどうか知らないが、十何年か前の時点の警察で、警部補余りの部下不足みたいなのが話題になっていたことがあった。つまり上司に当たる警部補が増えすぎた結果、その警部補につけられる部下の数が足りなくなって、捜査に支障を来すみたいな事が起きたわけだな。」

逆沢「つうか警部補を増やしすぎたことがそもそもの間違いだろ? やみくもに昇進ばかりさせるから、そんな事になるんじゃないの?」

愛原「まぁ年功序列システムと、人口ピラミッドがかみ合わなくなった結果だな。」

鼎「一般企業でも、ごくまれにそういう所があるらしいよ。課長のすぐ下に課長補佐と課長代理が同時にいて、極端なところでは特命課長とか専任課長とか副課長とか、色んな課長がいたりして。中には部下を持たない課長さんまでいたりして。」

逆沢「地方の政治支部でも、たまにそんな所があった気がするわ。トップの下に幹事長だの幹事長代理だの政調会長だの色んな役職持ちがいて、それらの主要なポスト以外の議員は、全員副会長みたいな。」

愛原「政治家は見栄っ張りだからな。実際は議員の中では下っ端同然であっても、それじゃ見栄えが悪いという事で、適当に肩書きを割り振るという事もあるらしい。元大臣みたいな元職ですら、現役で通用する肩書きのごとく扱われるのも、その名残なんだろうとも思う。」

逆沢「まぁ民間人でも、元職をアピールしたがる手合いはいなくもないけどね。今は単なる無職だろみたいな奴でも、たまに【元校長です】とか【元○○会社常務です】みたいに自己アピールする手合いも無くはないし。」

愛原「たとえ過去形であっても、自分がかつて上の地位にあったという事は、格好のアピールポイントという事なんだろうな。しかしそれは逆を言えば、下層部・下っ端に相当するポストにある者を軽んじている事の裏返しでもある。」

鼎「上層部だけでは、会社も軍隊もほとんど機能しないのにね。」

逆沢「それどころか、下っ端の方がより過酷な仕事をしてる事すら多いのにね。上層部が安全な所から指図しているだけなのに対して、下っ端は危険な現場で過酷な労働を強いられているケースとかも珍しくないし。下っ端の方が、作業遂行上に必要な高度なスキルを要求される事も少なくないし。」

鼎「世の中には指先だけで100分の1ミリの厚みを即座に測定できるような職人さんもいるというか、そういう人が現場で必要とされる職場もあるけど、これこそ職人芸と感動しちゃうよね。」

逆沢「高い場所で臆することなく作業を続ける建築作業員さんとか、狭い路地でも大きな車を巧みに操作する大型トラックや大型バスの運転手さんとか、こいつらスゲーと思えるような人達も、結構いたりするわね。今の日本は、そういう高いスキルを持った職人さんの数不足が徐々に深刻化しているという話も聞かなくないけど。」

愛原「ホワイトカラーでも、凄腕の名に値する職人は結構いるぞ。凡人の数倍もの契約を取ってくる凄腕営業マンとか、凡人の数倍の早さでプログラムを組んでしまう凄腕IT土方とか、凡人には無い発想力で多くの研究を成功させてきた凄腕研究員とかみたいにな。」

逆沢「下っ端といわれる人こそが、実際には世の中を動かしているんだなと、正直思ったりもするわ。」

鼎「そういう優れた人材は、できるだけ早く昇進させて、功に報いたいと思ったりもするよね。」

愛原「でもじゃあ優秀な下っ端を昇進させたら、上手くいくかと言われれば、必ずしもそうじゃないケースも多いけどな。凄腕営業マンや凄腕職人さんが、必ずしも管理職として上手くやっていける保証はないというか。」

逆沢「【名選手、必ずしも名監督にあらず】って事ね。そもそも求められている能力が全然違うんだから、当たり前といえば当たり前なんだけど。逆を言えば、下っ端としては無能でも、上司としては有能なタイプがいてもおかしくないというか。」

愛原「何百メートルもの高い場所で作業できたり、百分の一ミリ単位の細かい作業をこなせたり、日本屈指の名投手と騒がれたりしようとも、だからといって管理職として必ずしも優秀な保証は無い。俺が知ってるとある会社でも、そういうケースがあったな。社長から賞を受けるほどの凄腕営業マンが若くして支店長に抜擢されたのはいいものの、高圧的かつ独善的な指導が災いして、ついにとんでもない不祥事を起こしたのとか。」

逆沢「どれだけ凄腕の営業マンであろうが技術者であろうが、それと人の上に立つ才とは全く別物だからねー。」

鼎「私としては、下っ端として超優秀な才能を持っている人を、畑違いの管理職に昇進させちゃうのは、すごく問題な気もすると思うよ。」

愛原「だよな。但し、ポストは下っ端のままでも、報酬や待遇面では、実績相応で報いてやる必要はあるけどな。地位が低いから、報酬や待遇もそれなりというのでは、さすがにまずいだろう。」

逆沢「管理職だから、自動的に好待遇。下っ端だから自動的に低待遇というのでは、そりゃあ誰だって好待遇の上を目指しちゃうだろうしね。けどそれは、下っ端として優秀な人物の能力を逆に潰しちゃうデメリットしかないと思うわ。」

鼎「命令系統としての上下関係と、報酬の上下は、全く別物として扱った方が良さげだよね。」

愛原「ちなみに俺が太閤立志伝シリーズをプレイしていて、特に感じた感想もそれだった。たとえば忍者武将というのは、隠密調査スキルが非常に高くて、個人的には徹頭徹尾隠密調査作業に従事させたかったのだが、ゲームのシステム上それができなくて、歯がゆい思いをしたこともある。」

逆沢「歯がゆい思いというと、たとえば?」

愛原「たとえば太閤立志伝5では、敵城調査任務は、身分が足軽大将以上で無いと実行できない。なのでその武将の地位がそれ未満の時は、延々と修行なり兵糧売買などを繰り返して功績を積ませてやらないとならない。」

逆沢「なる程。私的には、隠密潜入任務なんてのは、下っ端の身分でもできそうというか、名の無い下っ端の内にしか出来ない任務の気もするけど、ゲーム的にはそういう仕様なのね。」

愛原「但し反面、どれだけ地位が上がろうと、【身分が上がりすぎるとできない任務】というのはゲーム仕様的に存在しないから、宿老級にまでなっても、その忍者武将には延々と隠密潜入ばかりやらせてたりしてたけどな。」

逆沢「それはリアル的におかしいだろ? 宿老級の大幹部になっても、延々と潜入工作に従事とか? 絶対に潜入時に顔バレするから。つうかそんなの大幹部がする仕事じゃねえし。」

愛原「ゲームだからな。ちなみに下手に階級を上げると支払う報酬も増えるから、その忍者武将の階級は、どれだけ功績が増えようと侍大将までに留めてたりもしてた事がある。」

逆沢「それも色々惨い。」

愛原「ただこれは、リアル社会にもつきまとう課題かなとも思うんだ。下っ端として優秀な人材を扱う上で、その地位や報酬をどうするかという問題については。」

鼎「そこいくと、プロ野球の世界は、すごくうまく出来ているよね。監督よりも年俸の高い名選手はいくらでもいるし。命令系統的には監督やコーチの方が上でも、実際にチームが勝利する上で重要なのは選手の働きの方なんだから、よく働く選手にこそ高い年俸を用意できるという点で。」

逆沢「プロ野球の世界には、変な年功序列みたいなものもないしね。実力さえあれば、若くても割とすぐに高給取りになれるし。」

愛原「そこいくと、官僚機構なんかは相当むごいと言わざるを得ないな。キャリア組とノンキャリア組。正職員と嘱託とでは、やってる仕事は同じでも、報酬もその後の出世経路についても、天地の差がある。実力や実績なんか二の次で、地位や報酬はスタートの時点で、最初からある程度運命づけられてしまってるというか。」

逆沢「二等兵上がりは、どれだけ頑張っても士官になれるのは一握りって奴ね。実際は、二等兵上がりの方が、過酷な現場で通用する高度な専門技術を持ってる事も多いだろうに。下っ端時代の経験も多い分、管理職になっても下っ端の気持ちがよく分かる分、上手くやりやすそうなイメージもあるし。」

鼎「福島原発事故の時もそうだけど、一番よく働いたのは現場の作業員達で、東京にいるお偉いさん達は、机上の空論を振りかざして頓珍漢な指示ばかり出してたみたいだよね。最終的には、現場担当者が本社の意向を無視して海水注入などの判断を独断に行った事で最悪の事態を免れた感じだけど。」

愛原「東京電力に関しては、6次下請けだの7次下請けだの、訳分からないほどの下請けまで設けて、上層部が現場の作業員の数も名前も現場の実態も全く把握できない有様だったからな。管理職側がまともに人材や現場の管理すらできていない。かの企業の上層部は、正直、業務的役割としての管理職や上層部ではなく、単なる上位権限者というか命令者というか貴族階級に近いと言わざるを得ない。」

鼎「つまり人材や業務を管理する役割としての管理職ではなくて、上下関係を規定した地位や身分の高低をはっきりさせる為のものでしかないという事かな?」

逆沢「肩書きが、役割ではなく、身分になっちゃってるという事ね。」

愛原「プロ野球の世界においては、監督やコーチという肩書きは、役割でしか無い。故に監督よりも高報酬の選手も多いし、チームが勝てなければ、選手以上に監督の能力不足が問題視される事も多い。だが官僚機構や大企業などでは、肩書きが身分というか、その人間の社会的地位を示す指標になっている場合がままみられる。どれだけ営業マンや技術者として優秀でも下っ端ならそれなり。逆に仕事内容は平凡でもキャリア組ならキャリア組みたいに。」

逆沢「政治家でもそんなのはいくらでも居るわね。実際にどんな功績を挙げたのかは謎でも、元大臣は何年経っても元大臣として箔がつき続けるみたいな。肩書き=社会的地位の典型というか。」

鼎「そんなだから、おべっか使いや派閥もなくならないんだよね。実際の仕事が出来ようが出来まいが、肩書き=社会的地位なら、ゴマすってでも出世したもの勝ちと考える人が多く出そうだし。」

愛原「逆を言えば、おべっか使いの無能が上層部になっても、それなりに組織が回る程度には余裕のある組織でしか、そういう配置はできないけどな。少なくとも零細企業でそんな人事をしたら、簡単に会社が吹っ飛ぶ。たとえば弱小ゲームメーカーでは、優秀なプロデューサーやプログラマーやお抱え人気原画家の配置換えなどは命取りになりかねず、故に肩書きではなく報酬などでバランスを取ったりする。時には社長よりも高報酬の企画屋やプログラマーや原画家というケースもあり得るだろう。」

逆沢「無名の社長が交代してもどうって事ないけど、実質的に会社の心臓になっている企画屋やプログラマーや原画家が辞めたら、それこそ会社が倒れかねないから、そういう社員にはそれ相応に配慮するって事ね。」

愛原「弱小企業では、特定の社員が、売り上げの大半に貢献しているケースも珍しくないからな。その社員が辞めたら会社自体が倒れかねないという状況では、なおさら。」

鼎「肩書き上は、何年経っても管理職に管理される側のままだけど、年俸や待遇などにおいて、管理職を凌駕する社員というのも、零細企業では十分にあり得るって事だよね。」

愛原「ちなみに公務員であっても、現場を愛しているが故にあえて昇進試験を受けない人は、実はそれなりにはいる。学校の教職員であれ、警察官であれな。」

鼎「生徒からも先生達からも評判がいいけど、それでも一度も教頭や校長にならないまま、生涯一教員として過ごすみたいな先生もなかにはいるよね。」

逆沢「逆に、誰やねんコイツみたいな奴が、校長とか教育委員会の幹部だったりする事も多いけどね。」

愛原「ただ悲しいかな。公務員組織では、現場を愛しているが故に昇進を拒む優れた現場職員よりも、出世欲が強いだけの人間の方が、結果的に高報酬・好待遇という例も多そうな気がする。」

鼎「警察などでは、真面目に現場で頑張るほど、昇進試験の勉強に時間が取れなくなるから、結果的に要領よく仕事をさぼって試験勉強に専念できる人ほど昇進しやすいみたいな話も聞いた事があるけど。」

逆沢「学校の先生なども似たようなものかもね。年中無休で部活動などにも積極的に注力している先生もいる一方で、要領が良くて無難主義なだけの典型的公務員みたいな先生もいたりして、後者の方が案外出世しやすかったりして。」

愛原「現場を愛していたり、現場で優秀な人材を現場に留める事自体は、決して悪くない。むしろ賞賛すべきだろう。だからこそ命令系統上、下っ端にあるというだけで、要領が良くて出世欲が強いだけの人間に、給与や待遇で負け続けるとしたら正直面白くない。前回、【代わりはいくらでもいる】人達よりも、そうでない人にこそ、待遇を強化すべきという話をしたけど、これは今回の話にも当てはまると思う。」

鼎「世の中には、一つの技術を身につけるのに10年みたいな職人さんもいるけど、そういう容易に代わりを見つけてこれない人材こそ、待遇を良くするべきという事だよね。」

愛原「大型トラックや大型バスの運転手にしても、免許さえ取れれば誰でも即戦力という訳にはいかない。実際には普通の自動車にはない高度な運転センスが要求される。また運送トラックの場合は、運転技術だけでなく荷積みスキルなども要求されて、さらに難易度は高くなる。確かに学歴などは不要だが、だからといって誰でも簡単にできる仕事では決して無い。いくら高学歴のキャリア官僚だからといって、簡単に仕事が務まると思ったら大間違いだ。」

逆沢「彼らに高層マンションでの建設作業とかやらせたら、足が震えて、一日で逃げ出しちゃうかもね。たとえ東大卒のスーパーキャリアエリートであろうとも。」

愛原「かくも優秀で素晴らしき下っ端の人達。その下っ端の不足は、即ち社会機能の低下にも直結する。部下のいない士官に戦はできないし、部下不足の警部補が捜査を満足に行えないのも納得だし、現場作業員が足りない建設現場で事故や手抜きが相次ぐのも当然といえば当然だ。」

鼎「私達は、華々しい武将達の活躍にばかり憧れるけど、実際には兵士あっての戦功であり、下っ端の働きにももっと目を向けるべきという事かな?」

愛原「凄腕の軍師の活躍の裏には、凄腕の諜報員の存在が必ずある。大きな危険をおかし、並々ならぬ隠密技術を用いて、敵の内部にまで潜入し、必要な情報を入手し、それを無事に届ける多くの凄腕隠密の人達がな。もちろん凄腕の下っ端をまとめる上司も立派ではあろうが、それで下っ端の功績が無視されてよいものではない。」

鼎「私達は、お偉いさんの活躍にばかり目を向けて憧れたりもするけど、彼らを実質的に支える偉大な下っ端にこそ、これからはもっと目を向けるべきなのかも知れないよね。」

逆沢「【安土城を作ったのは誰ですか?】と聞かれて、織田信長ではなく【大工さんです】と答えるコントクイズもあるけど、実際にはそれはジョークではなく、一面の真理ではあるって事ね。」

愛原「石山本願寺跡に大坂城を作ったのは誰か?と問われれば、普通は豊臣秀吉という事になるんだろうけども、豊臣秀吉は作るように命令しただけであり、実際に現場監督として直接建築設計に携わったのは黒田官兵衛であり、彼が動員した大工達のようなものだな。」

鼎「熊本城の石垣が地震で崩壊して、その復興もノウハウをもった技術者がいなくて困難らしいけど、優秀な現場労働者が失われると、こんなに大変な事になるんだなと改めて思ったよ。」

愛原「我々は偉大な政治家や武将達にばかり目を向けるが、彼らに優秀な下っ端としてのスキルまでは期待できないからな。世の中を実際に機能させているのは、優秀な下っ端の皆様であり、その人達がいなくなると、いざという時大変な事になる。たとえば優秀な大型トラックの運転手なり、優秀な建設作業員なりが、今後さらに大きく失われたならば、おそらくその国は、商品の流通から、建物や交通インフラの補修まで、まともに回らなくなる日が必ず訪れる。逆を言えば、徳川家康の天下取りに際して、勇猛な三河兵の存在はよく指摘されるが、優秀な下っ端をどれだけ多く抱え込めるか否かこそが、社会や政権の行方すら左右するともいえるのだ。」

鼎「徳川家康さんは、武田家滅亡の際に、赤備えを始めとした優秀な武田家の人材も多く取り込んだし、織田信長さんに壊滅させられた伊賀者も同様に取り込むなど、優秀な下っ端を多く抱え込んだという点では、どの戦国大名にも負けなかった印象があるよ。」

逆沢「天下の行方を左右するのは、優秀な幹部ではなく、優秀な下っ端をどれだけ多く抱え込めるかの方が実は重要って事か?」

鼎「そう考えると、今の日本はすごく危ないよね。下っ端軽視があまりに深刻すぎるというか。誰も下っ端になりたがらないし、親もたくさんの子供を産んでその子供を下っ端にするくらいなら、一人の子供をエリートにする方がマシと考えるような人が増えすぎてる気がするし。」

愛原「士官級だけで戦はできないんだけどな。社会は士官級も警部補級も、そんなに多くは必要としていない。必要なのはむしろ現場の下っ端の方だ。【代わりはいくらでもいる】レベルの管理職もエリートも、正直もう余っとるねんちゅうか。」

鼎「本当はすごく大切で、すごく優秀な下っ端の人達にこそ、社会はもっとスポットを当てるべきかもと思ったよ。彼らがいてこそ、世の中はちゃんと回るわけだから。」

逆沢「日本が戦後、世界的に珍しいレベルの奇跡の復興を遂げたのは、優秀な下っ端をたくさん生み出したからのような気もするわ。彼らの時代は、一億総中流といわれたくらい、下っ端でもそれなりに裕福というか、貧富の格差も小さかったから、下っ端でも誇りを持って自分の仕事をする事ができたし。」

鼎「今の下っ端の人達は、自分の仕事に誇りが持ちにくいよね。肩書きが報酬や社会的地位とリンクしちゃってるから、本当は下っ端として優秀な人達までもが出世したがるようになって、結果的に優秀な人材ほど、下っ端に留まってくれなくなってるというか。」

逆沢「トンネル崩落事件とか橋桁落下事件とか見てると、深刻にそう思うわ。危険な現場を検査や事前の段階で把握できるような優秀な人材は、既に出世したり他の職場に移ったりして、もう現場には優秀な人材は残っていないのかとも。」

愛原「前回も触れたが、優秀な人材は、自分の優秀さに見合う報酬が得られる職場にジョブチェンジしてしまいがちだからな。いくら下っ端として優秀でも、下っ端でいる以上、まともな報酬が得られないと思ったら、彼らは出世するなりジョブチェンジするなりして、下っ端でいる事をやめてしまう。」

逆沢「そして優秀な下っ端が、社会からいなくなってしまうという事ね。」

愛原「忌まわしきは下っ端軽視の風潮だな。高度なスキルとまとまった数を必要とする現場の下っ端が軽視される世の中は、正直危ない。士官になる為の勉強しかしてこなかったような人材ばかり多くいても、必要な士官の数は既に足りてるし、士官向きの勉強しかしてこなかったような連中が、汗臭い現場の下っ端として適応するのも大変だろうし、そもそも社会全体の育成コスト面でも無駄も多い。」

逆沢「士官というか、エリート養成校としての側面のある大学への進学率が5割を超えた時点で、かなりヤバイと思うわ。士官やエリートはそんなにいらねーんだよ。欲しいのは現場の下っ端なんだよとも。」

愛原「そのおかけで大学の価値自体が、大きく暴落した印象もあるな。昨今の世界文化遺産並に。」

逆沢「ああ、世界文化遺産も、安倍が山口県やその周辺に大量の世界遺産登録したり、国宝ですら無い群馬県のアレにも世界遺産登録したりして、もう国宝未満の価値にまで暴落した印象ね。日光東照宮あたりまではそれなりに納得というか、石見銀山あたりがギリギリ限界というか、少なくとも富士山以降は、松井秀喜の国民栄誉賞級に、価値を暴落させたなとしか思えないというか。」

愛原「安倍政権は【優秀な人材の育成】というのを色々はき違えているみたいだが、昔から優秀な人材はたくさんいたし、だからこそ戦後の日本も急成長を遂げる事が出来た。むしろ無闇に大学の進学率などを上昇させて、人材の均質化と平凡化を招いた分だけ、高度な専門スキルを持つ下っ端の数を減らしただけの気がしてならない。」

逆沢「日本の大学は、レジャーランドとまではいかなくとも、職業訓練施設としてはかなり疑問符がつく所も多そうだしねー。中途半端なゼネラルエリートの育成にはそこそこ向いてたかもしれないけど、それも供給過剰気味だし。」

鼎「政府が意図する【優秀な人材】の定義がよく分からないけど、いわゆる【大卒レベル=優秀な人材】とか【管理職・総合職・幹部候補生レベル=優秀な人材】なら掃いて捨てられる程いるし、これ以上必要ないよね。」

逆沢「今はコンビニの数より歯医者の数の方が多いらしいけど、優秀な人材の無駄遣いと思わなくも無いわ。同じ医療系でも、看護師とかは割と深刻に不足気味らしいし、例えばそっちに人材を回せないのかとも。」

鼎「歯医者さんを含む医師と違って、看護師は個人で独立開業できない雇われ側というか、下っ端側だから、同じ医療業界でもあまり人気が無いのかなぁ?」

逆沢「医師も看護師も、どっちも高度な専門技術を必要とする重要な職業には違いないけど、仮にどちらでも成れる力があるなら、看護師より医師を目指す人が多いって事かねー? よく分からないけど。」

鼎「医療業界では慢性的な助手不足という事もあって、若手の医師の卵の人が研修医などの名目で看護師や助手的な仕事に回される事もあるらしいよね。しかもかなり薄給で激務だとか。」

逆沢「飲食業界やコンビニ業界とかでもそうだけど、下っ端従業員(パートなど)の数が足りないから、人手が足りない分、彼らに激務を押しつけるみたいな事が色んな業界でまかり通っている感じがしなくもないわね。その結果、不眠不休の高速バス運転手とか、大学の試験にも出席できないブラックバイト学生とか、そんなのが社会全体で増え続けているというか。」

愛原「下っ端の待遇を根本的に見直すべきだな。また我々にしても、過剰なエリートへの憧れ意識を見直す努力をした方が良さそうだ。我々はすぐに偉大な政治家だの武将だのに憧れを持ちがちだが、それを支える偉大な下っ端達にもっと目線を向けるべきというか。」

鼎「下っ端の人達は、お偉いさんにはない高度なスキルをいっぱい持ってるよね。作物を上手に育てる技術。物を上手に運ぶ技術。物を綺麗に作る技術。それを売る技術など。」

愛原「それらの技術の多くは、ぶっつけ本番で何とかなるものではなく、習得に長い年月を必要とするものも少なくない。足りなくなったからすぐ補充とはいかないのだ。」

逆沢「飲食業界やコンビニ業界のバイトとかならマニュアル仕様になってるから、割と手早く実戦投入できるかも知れないけど、その分、薄給激務だから、やっぱり人気が無いというか、人材不足になりがちなのは一緒だしね。」

愛原「下っ端は幹部職や管理職と比べて、決して楽な仕事では無い。特殊なスキルを要求されたり、もしくは相当に激務であったりする事も多い。その分だけ報酬があれば彼らも誇りを持って仕事を続ける事ができるだろうが、でなければ、慢性的な人材不足になる事は目に見えている。」

逆沢「そして数の面でも、下っ端は幹部職よりずっと多くの人員を要求される。であればこそ、幹部志望よりも下っ端志望の人の方がより多く必要なのにも関わらず、数を必要としない幹部志望の人の方が多いって所が厄介なのね。」

鼎「誇りを持っているが故に、あえて昇進試験を受けずに現場に留まる学校の先生とか警察官の人もいるだろうし、そういう優秀で志もある下っ端の人が、誇りを失わずに済むような環境が必要だよね。今の世の中だと、肩書きだけで人間の優劣を判断されがちだから、どうしても下っ端の人が誇りを持ちにくい側面は否定しがたいし。」

逆沢「優秀な下っ端の人が仕事に対する情熱を失ったり、もしくは下っ端である事を嫌がって昇進してしまったりした結果、出来の悪い下っ端ばかりになって、事故や不祥事が相次ぐような社会になったら最悪だわ。」

愛原「あるいは、ブラック企業の下っ端になってすりつぶされるくらいなら、生活保護をもらってた方がマシみたいな心境になってしまったりとかな。」

逆沢「下っ端は本来、重要な社会の歯車であるはずなのに、重要さが忘れ去られ、むしろできれば成りたくない軽視すべき職分扱いになってるのが、ひたすら悲しいわね。」

愛原「以前、元首相秘書官の飯島勲氏が【東京都知事は(健康問題や不祥事問題などを起こさない限りは)基本誰でも務まる】といった主張をした記事を読んだ事があるが、なる程なぁと思った。言われてみれば徳川幕府にしても、その大半は幼君かお飾り将軍がトップだったくらいだし、大きな組織であればある程、トップは余計な事をしないお飾りで十分という考え方は、確かに理にかなう。幹部職や管理職にしても、無能はさすがに困るが、【この人で無ければ絶対務まらない】なんて事はなく、実際は別の者が代わりを務めても組織はそれなりに回っていくケースは多いだろう。しかし下っ端は違う。下っ端はまず第一に数が必要だ。また職能にあった専門スキルが要求される事も多い。」

逆沢「上司の代わりはいくらでもいるし、なりたい人も多いから数不足に悩むこともほとんどない。しかし部下に関しては、そうはいかないって事ね。幹部志望の者が増える程、下っ端の数不足はどうしても深刻になるし、仕事も過酷なものが多いから、おいそれと誰でも務まらないから。」

愛原「下っ端の数とモチベーションを同時に確保するのは、なかなか難しい。しかしその難しい両方を成功させたからこそ、戦後日本の奇跡の大復興があったとも思う。しかしそんな素晴らしき戦後レジームが、今、まさに否定されようとしている。その結果、かつて世界第二位の経済力を誇った日本の成長率は、ついにG7でもダントツの最下位にまで堕ちてしまった。正直、残念でならない。」

鼎「監督として、あるいは上司として、あるいは経営者として優秀な人は、それなりに評価されて当然だとも思うけど、下っ端として優秀な人にも、同様にちゃんと評価して欲しいと思うよ。」

逆沢「歴代内閣総理大臣や知事・国会議員レベルでも、【代わりはいくらでもいる】レベルの凡庸な業績しか残してない人の方が多そうだし、そんな【代わり(成りたい人)はいくらでもいる】人達より、人手不足で代わりが容易に確保できない人こそ、本当に大切にして欲しいと思うわ。」

愛原「校長というポストとかは、【この人で無ければ務まらない】的な革命的な何かに挑戦する人ほど敬遠されて、逆に【無難に任期をこなす】型の凡庸な人ほど望まれるという話も聞くが、だとすれば、そんな【代わりはいくらでもいる】人達に高給を払うよりも、毎日の激務に押しつぶされそうになっている一般職員にこそ、光を当ててやれよくらいは俺も感じるわな。」

鼎「選手は監督より低待遇でなければならないなんて論理はおかしいと思うし、【代わりはいくらでもいる】レベルの上司よりも、【かけがえのない戦力】である下っ端にこそ、光を当ててあげて欲しいよね。」

愛原「看護師。介護士。大型車両の運転手。鉄工所の工員。百姓。建設作業員など、社会に一定の数が必要かつ一定のスキルが要求される下っ端の不足は、社会全体の活力の低下にもつながりかねない。逆を言えば、優秀な下っ端を多くそろえられれば、それは一国を世界屈指の先進国にまで押し上げたり、あるいは天下すら取れる原動力にもなる。士官だけで戦はできない。必要なのはエリートではなく、優れた下っ端の方なのだという視点を、もう少し深めたいところだな。」

逆沢「英雄が活躍する物語は面白いけど、英雄の影で貢献する黒子の人達にも、もう少し注目してみたいわね。」














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